“隠れ感染者”からコロナが拡大する恐れも(写真:共同通信) 画像を見る

「人の往来が多くなる年末年始に合わせるように、国内で感染を広げているのが新型コロナウイルスの新たな変異株『XEC株』です。アメリカでは、これまで主流だった変異株を押しのけるほど感染力が強い。さらに免疫が効きづらいという特性もあり、今年の冬は厄介な変異株が流行しそうです」

 

とは昭和大学医学部の二木芳人名誉教授(臨床感染症学)だ。

 

昨年5月、政府は重症化リスクの低下を理由に、新型コロナウイルスを、インフルエンザと同じ感染症法上の位置づけである「5類」に“格下げ”した。日常生活における制約がなくなり1年半、最近では「コロナは過去のもの」「風邪と一緒でしょ」と考えている人も少なくない。しかし、5類移行後の1年間で3万2千576人がコロナで命を落としていることはあまり知られていない。

 

また、’23年度にコロナで亡くなった人数は人口10万人あたり31.4人で、インフル(1.1人)の約30倍。コロナの危険度はインフルと比べて桁違いなのだ。二木先生がこう続ける。

 

「コロナは、高齢者や基礎疾患を持つ人にとっては今でも脅威であることを忘れてはいけません。たしかに、XEC株も体力のある若い人が感染しても風邪のような症状で済むことが多いでしょう。ところが、コロナは風邪と同じだという気の緩みから、知らず知らずのうちに周囲にウイルスをまき散らしてしまうのです」

 

とはいえ、症状らしきものがないとなると、コロナに感染しても気づくのが難しい。また、現在流行期に入っているインフルと症状が似ていることも混乱を招く一因となりそうだ。二木先生が続ける。

 

「インフルは高熱が出たり、節々が痛んだりとはっきりした症状が出るのが特徴。たしかにコロナの場合は“なんとなく具合が悪い”“鼻風邪かな”という程度で済む人が多いです。しかし、ふだんの自分と比べて、少しでも異変を感じたら検査を受ける。そのような姿勢が、自らを守るだけでなく“隠れ感染者”となってコロナを拡大させないためには重要です」

 

コロナの症状では、咳やのどの痛み、発熱などがある。またコロナ特有の症状としては、味覚障害が出ることも知られている。初期のコロナでは、欧州で感染者の88%に味覚障害がみられたという報告も。変異を繰り返し、味覚障害の発生率は減ったというが、インフルにはあまりみられない症状であることには変わりない。

 

コロナと味覚障害について「よし耳鼻咽喉科」(東京都江東区)院長の山中弘明先生が語る。

 

「コロナ感染による味覚障害は、鼻詰まりや鼻汁などの鼻炎症状によるものとは異なり、鼻炎症状がなくても、何を食べてもおいしくない、口の中がゴムのようなにおいがするなどの異変が生じます。これはウイルスが味覚をつかさどる舌の『味らい』の機能を低下させるためと考えられています。また、通常は舌で感じた味の情報は神経細胞を通じて脳に伝わり私たちは味を認識しますが、その連携のどこかでトラブルが生じることが原因ともいわれています。急に味覚障害が生じた場合、コロナに感染している可能性を考えたほうがいいでしょう」

 

これからは忘年会、クリスマス、お正月とイベントが続くが、楽しい食事のはずが「あれ?」と異変を感じたら注意が必要。そのまま放置すれば、重症化して自分が苦しむリスクのほか、気づかずに周囲にコロナをまき散らすなどして、大事な人の命を奪いかねない。むさしの救急病院(東京都小平市)の鹿野晃院長は次のように警鐘を鳴らす。

 

「今の病院ではほかの疾患の患者さんとコロナの患者さんを一緒に診ているのが現状。報道されていませんが、病院や高齢者施設では今でもクラスターのような院内感染が多発しているのです。たしかに、かつてのコロナのように、ウイルス性肺炎を起こし、ECMO(体外式膜型人工肺)をつけるほど重症化して亡くなるケースは少なくなりました。一方で、感染により高齢者や基礎疾患のある人が誤嚥性肺炎や全身不良で命を落とすケースは増えています」

 

かつての強毒性のコロナではなく、毒性は低下したものの、感染力や免疫をすり抜ける力を増した変異株が猛威をふるう今冬。2年前の’22年の冬の第8波では、オミクロン株の感染拡大により約3万人が命を落としたが……。

 

「今年はインフルに加えて、マイコプラズマ肺炎などの感染症も広がり“トリプルデミック”という状況。免疫力が例年以上に低下しているなか、第8波に迫る犠牲者が出てもおかしくない」

 

と、鹿野先生がこう続ける。

 

「感染しても、すぐにウイルスを減らす抗ウイルス薬を使えば症状も軽く済み、感染拡大させるリスクも軽減するでしょう。ところが、コロナの治療薬は自己負担が高くて『ゾコーバ』でも1万5千円ほど。ゾコーバは高血圧の薬とは併用できないため、ほかの抗ウイルス薬を使うとなると3万円ほどに。この自己負担を含めて、抗ウイルス薬が使いにくい制度になっていることも歯がゆいところです」

 

効果的に抗ウイルス薬を使用できれば、この冬のコロナ死亡者を減らすことができそうだが、石破政権には、どうやら“打つ手なし”のようだ。さらにコロナ感染を疑って受診しようとしても、適切な治療を受けられない事態も起こりうるという。

 

「多くの病院では5類移行を受けて、コロナ専門の発熱外来を閉じています。開業医でも、飛びこみの患者さんは診ないというケースも少なくありません。発熱患者で特に若い人でかかりつけ医もいないような方がコロナに感染したと思って検査を受けようとしても、かかる医療機関が減っているため、少し前に目立った医療崩壊が起こる可能性もあるのです」(鹿野先生)

 

この冬は、手洗いやうがいなどの感染予防策を講じながらも、感染しても軽症で済む人たちが、自らがコロナを広げているという自覚を持つことが大切なようだ。

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