■「なにかお探しですか?」お目当ての本が見つからなくても温かな気持ちに
1月のある日の午後。いつも必要以上に書店員がいる「ててたりと」に20代の女性と、その母親らしき女性がやってきた。2人は書棚を見回し、目的の本を探しているようだ。
「なにかお探しですか?」
さっそく、看板娘で店内清掃や本の整頓を担当する知的障がいのある書店員が声をかける。どうやら2人は、子、丑、寅という十二支の順番ができた由来を描いた絵本を探しているようだ。
「じゃあ、こっちです」
と、看板娘は、絵本のコーナーに2人を案内する。そこにほかのスタッフも加わる。
「どんな絵本ですか?」
「牛の背中に乗ったねずみが、最後にちょこんと飛び降りて一番にゴール……みたいな。私が小さいときに読んでいた絵本なんですが」
20代の女性客は、子供に十二支のことを教えるために探しているという。
「どんな表紙ですか?」
別の書店員からも質問が飛ぶ。どうやら、お目当ての絵本『十二支のおはなし』(作:内田麟太郎、絵:山本 孝/岩崎書店)は在庫がなく、結局、取り寄せに。それでも満足そうな顔で20代の女性はこう語った。
「目的の本は、ショッピングモールの大型書店なら見つかるかもしれないし、アマゾンで注文すれば翌日に届くかもしれません。でも母からこんな店があるよ、と教えてもらい『ててたりと』に来てみたかったんです」
渡部さんが、「いい仕事したね」声をかけると、看板娘である書店員は、満面の笑みを見せた。温かな空気が漂う「ててたりと」。今日も色とりどりのポップとたくさんの書店員がお待ちしています。
(取材・文:山内 太)
【後編】「なぜ本屋さん?」障がいのある書店員が働く「本屋さん ててたりと」パン屋さんでもお菓子屋さんでもダメだった理由へ続く
