■遺体の保管費用は税金で賄われている
《親族調査をきちんとやると時間がかかるので、場合によっては何ヵ月も安置することになる。保管場所に困るということは聞かないが、長期間になってしまって保管にかかる費用がかさむ》(政令市)
《すぐ火葬してよいという基準を設けてほしい。当市で1ヵ月という目安は定めているものの、それまでの保管費用は市民の税金でやっている。(中略)今は期間におけるルールがないので、長く期間を取らざるを得ない》(中核市)
《火葬前に探すと、期間や費用がかかるので、火葬を速やかに行うことを優先している》(特別区)
このように、自治体も引き取り手のない遺体の取り扱いに苦慮している実態が垣間見える。
「ほとんどの自治体は戸籍などをたどって親族を捜しますが、たとえ見つかっても連絡がとれないことが数多くあります。また、連絡がとれたとしても“疎遠だから”“生前の関係性がよくなかった”といった理由で、親族が遺体の保管、火葬、埋葬の費用の負担を拒んだり、遺骨や遺留品の引き取りを断るケースも少なくありません」
そう話すのは、引き取り手のない遺体の問題に詳しい、シニア生活文化研究所の小谷みどりさん。
自治体によっては引き取りの意向を確認するのに、数カ月以上を要するケースもあるという。
高齢化が進み、ますます一人暮らしの世帯の増加が見込まれるなか、引き取り手のない遺体はさらに増えることが予想される。そんな状況で明確な基準がなければ、今西さん夫妻のようなトラブルがますます増える可能性は否めない。
この状況をなんとか解決しようと、自治体によっては、生前から終活情報や緊急連絡先などを事前登録する取り組みを進めているところがある。全国に先駆けて高齢者の終活を支援する事業を開始した神奈川県横須賀市だ。
「2018年からスタートした『わたしの終活登録事業』は、市民の方が市に、緊急連絡先、かかりつけ医、お墓の所在地などを事前登録できる制度です。所得制限も年齢制限もなく、電話1本で、無料で登録可能です。万一どこかで倒れたり、亡くなった場合、警察や病院などから身元の問い合わせがあれば、市が答えて本人をサポートします」
こう語るのは、地域福祉課終活支援センターの北見万幸さん。
現在は、約1,070人が登録。隣の横浜市も、来年から横須賀市を参考に65歳以上の高齢者を対象とした登録事業を開始する予定だ。
北見さんは、引き取り手のない遺体の問題で最も重要な対策となるのは緊急連絡先だという。
「警察や病院、自治体がいちばん困るのは、連絡先がわからないことなんです。たとえばマイナンバーカードに緊急連絡先が登録されるようになれば、身元調査の時間と手間が大幅にカットできる。亡くなってからではなく、事前に登録しておくことで、本人のリスク回避、そして自治体の業務負荷の軽減にもつながるでしょう」
横須賀市のような取り組みを行っている自治体は、まだほんの一部だ。人はいつどこで死ぬかわからない。何かあったときにスムーズに連絡できるよう、一刻も早く、法整備を進めてもらいたいものだ。
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