■裏紙をメモ用紙に……医療現場から悲鳴が
282床を有し、救急患者も受け入れる健生病院(弘前市)元事務局長の泉谷雅人さんが明かす。
「当院はコロナ禍前まで、病床利用率が約90%で黒字でしたが、2020~2023年はコロナ禍で患者の受け入れ制限を余儀なくされて赤字に転落しました。ところが2024年には、病床利用率が95%にまで回復して、コロナ禍前よりも約5億円増収したものの、円安や物価高の影響で医療材料が値上がり、赤字のままです」
追い打ちをかけているのが、マイナ保険証への切り替えや、電子カルテ導入など、政府が進める“医療DX”。一度導入したら終わりではなく、定期的な更新が必要で、出費はエンドレスだ。
「当院も2024年に約5億円を借り入れ、電子カルテを更新。返済が重くのしかかっています」(泉谷さん)
影響は都心の病院にも広がっている。昨年9月末、24時間体制で地域の2次救急を担ってきた吉祥寺南病院が、建築資材の高騰により、老朽化した病棟の建て替えが困難になったことで、診療を休止。運営を引き継ぐ法人があらわれたものの、医療が再開されるまでには2~3年かかる見通しだ。
事故による負傷や、脳卒中や心筋梗塞などの場合、一秒でも早い搬送が命を救うことがある。救急医療を担う病院の廃業や休業は患者の死に直結しかねない。赤字経営を強いられているため、各病院は厳しい倹約に努めている。
年間200回飛行機に乗って全国各地の僻地の病院で医療にあたる、著書に『空飛ぶドクター ママさんフリーランス医師の僻地医療奮闘記』(かざひの文庫)もある、総合臨床医の渡辺由紀子さんが語る。
「どこの病院でも共通しているのは、経費削減。メモ用紙は裏紙を使うのは当たり前。医局で使うパソコンはすごく古く、ソフトも3つほど前のバージョンを使っているから、少し重たいデータを扱うときは止まってしまいます。光熱費も高いので、蛍光灯が10本あったら、ついているのは6本くらいだし、空調もスタッフが使う部屋は温度設定が高いです」
当然、職員の賃金を上げることも難しい。
「多忙を極めながらも待遇改善が進まないので、一般企業など医療以外の業種へ転職する看護師も増えています」(前出・岩下さん)
実際に2022年度の厚労省の調査では、看護師の離職率は過去最多の約12%に達している。医療現場の窮状で、最終的に不利益を被るのは患者だ。
「ある病院に勤務していたとき、前日まで稼働していた病院がいきなり閉鎖したんです。閉鎖される場合は担当医が紹介状を作るのですが、その時間もないほど急で、近隣病院に患者が押し寄せ、平常化するまでに3カ月かかりました。また、ある病院の職員が朝9時過ぎに循環器疾患の不調を訴えたのに、治療できる病院に搬送できたのが14時で、残念ながら亡くなりました。医師から『これが地域医療の現実だ』という声もあって悔しくて……」(前出・渡辺さん)
「近隣にお産する病院がないため、臨月近くになって妊婦が病院近くのホテルに泊まり込むケースも聞きます」(前出・産婦人科医)
