■システムダウンで診察が停止することも
そのうえ、「電子カルテを導入しても、必ずしも患者や医療現場のプラスにはならない」と疑問を呈するのは、医療DXにも詳しい医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんだ。
「政府は、電子カルテを導入すると“情報連携が進む”と説明していますが、多くの患者は、たとえば風邪を引いても同じクリニックを受診するので、電子カルテを共有する恩恵は少ないんです。それよりもシステムが“止まるリスク”のほうがはるかに大きい」
実際に、上さんが勤めるクリニック(東京都)では電子カルテのトラブルが日常茶飯事だという。
「実は、先週の土曜日にも電子カルテのシステムがダウンして大混乱でした。夕方まで受付もできず、患者さんがクリニックの外まで長蛇の列。患者の医療情報も投薬履歴も確認できず、医療安全上も非常に危険な状態だったんです」
こうしたシステムダウンは、「この1か月で8回もあった」という。
「銀行で同じことが起きたら行政処分でしょう。でも電子カルテだとメディアも報じない。患者と医療現場だけが泣き寝入りです」
それでも、上さんが勤めるクリニックが導入しているシステムは、“業界では優良”とされるレベルで、導入に数千万円かかったという。
「大病院は、潤沢な予算を投じて、より優良なシステムを導入していますが、中小規模のクリニックや地方の診療所レベルまで、一律に義務化するのは、どう考えても無理があります。現在、政府はどの医療機関でも使える標準型電子カルテの開発を進めていますが、過去に政府主導でつくられたシステムがトラブル続きだった現実を思えば、先が思いやられます。
こんな不安定な仕組みを“義務化”して、全国の診療所にまで押しつけたら、現場がどうなるか――考えただけでも背筋が寒くなります」
現場の声に耳を傾けながら、丁寧に進めてほしいものだ。
画像ページ >【写真あり】システムエラーなど抱える問題は多い電子カルテ(他1枚)
