「当クリニックでは、インフルエンザの患者が一時的に減ったように見えましたが、最近また少し増えてきている印象があります。寒さや空気の乾燥の影響もあり、年末にかけて再び感染者が増える可能性があると警戒しています」
そう語るのは、いとう王子神谷内科外科クリニック(東京都)の院長、伊藤博道医師。
異例のスピードで感染拡大しているインフルエンザ。厚生労働省によると、12月21日までの1週間に報告された1医療機関あたりのインフルエンザ患者数は32.73人。前週の36.96人からは減少したものの、過去10年の同時期と比べると、最多水準で推移している。さらに宮崎県や福岡県など、1医療機関あたりの患者数が爆発的に増えている地域もあり、年末年始にかけて油断ができない状況が続く。
クリニックなどの混雑がつづくなか、混乱に拍車をかけているのが「マイナ保険証」への切り替えをめぐる問題だ。12月2日以降、従来の健康保険証は原則として使用できなくなり、保険診療を受けるためには「マイナ保険証」か、カードを持っていない人に向けて発行される「資格確認書」の提示が必要になった。
とはいえ、マイナ保険証の普及率は’25年10月末時点で4割弱。
「切り替えが定着するまでの暫定措置として、厚生労働省は2026年3月末までは、有効期限が切れた従来の健康保険証や、本来はマイナ保険証と併用する前提の『資格情報のお知らせ』のみでも受診できるよう、全国の医療機関に文書で通達しています」(全国紙記者)
この暫定措置により、当初の期限とされた12月2日を過ぎても、従来の保険証は使用できるはずなのだが――。
記者が取材を進めると、複数人から「従来の保険証が使えず10割負担を求められた」「従来の保険証での受診を渋られ、マイナ保険証を持ってくるよう言われた」「問題ないはずの『資格確認書』ですら、受診を断られた」などという戸惑いの声があがった。
なぜ、このような事態になっているのか。全国の開業医や勤務医が加盟する「全国保険医団体連合会」(以下、保団連)事務局の曽根貴子さんは次のように話す。
「厚生労働省が次々と出す通達を現場に周知徹底していないせいで、医療現場が混乱しています。医療機関も把握しきれておらず “従来の保険証は使えません”と伝えてしまう事例があるのでしょう」
大阪府保険医協会の副理事長で、北原医院の院長、井上美佐さんは、次のように語る。
「マイナ保険証を利用する患者さんは、たしかに増えてきています。しかしその一方で、カードリーダーの読み込みがうまくいかないなどのシステムトラブルは、いまも解消されないまま続いているのです」
保団連が全国の約9千500の医療機関にアンケート調査を実施したところ、約7割が〈マイナ保険証による資格確認でトラブルを経験した〉と回答。さらに〈資格情報が確認できず、いったん10割請求した〉という医療機関は3千400件以上にものぼっている。
「インフルエンザが流行し、医療機関が混雑するなかでこうした不具合、保険証対応の混乱が頻発すると、窓口がさらに混み合って感染対策上も問題があります」(前出・井上さん)
マイナ保険証の取得は、“任意”であって“義務”ではない。暫定措置周知の徹底、システムトラブルへの対応を早急に進めてもらいたいものだ。
