6月27日までNHKで放送されていた土曜ドラマ『ムショラン三つ星』が話題だ。小池栄子演じるイタリアンのシェフが、自分が働いていた店が閉店したことで、男子刑務所に再就職。管理栄養士として炊場(炊事工場の略)で担当の受刑者や刑務官と一緒に、受刑者たちが“美味しい”と思ってくれる献立を知恵を絞って考えていくというストーリー。なかなか窺い知ることができない刑務所の食事作りにスポットを当てた同ドラマは、多くの反響を呼んだ。
ドラマでは主人公が受刑者たちに「何を食べたいか」を聞き取り、冷めても美味しい郷土料理の「イカフライレモン」や、星型にカットしたにんじんが入った「七夕カレー」などを作るが、実際に刑務所ではこういった季節ごとに変わるメニューがあるのだろうか。
刑務所の管轄である法務省矯正局総務課広報係に、書面で質問したところ「各施設のメニューについて網羅的に把握していませんが、各施設で季節を感じられる献立を取り入れるなどの工夫がなされていると承知しています」との回答だった。
では、かつて刑務所で食べた食事は“星いくつ”だったのだろうか。元受刑者に話を聞いた。関東にある刑務所に入所していたAさんは「年を越すときには良い食事が出た」と当時を振り返る。
「横浜はマグロのお刺身とお雑煮が出ましたよ。お刺身が出るなんてことはまずないから、嬉しかったね。お雑煮は、ほかの刑務所でも出るようだ。食事が美味しいといわれる刑務所は府中。あとは、札幌や網走などの北海道の刑務所。地のものを出してくれるから、北海道や寒い地域の刑務所は比較的美味しいと聞くね。
食事が美味しいと聞いて受刑する刑務所の希望を出す人もいるが、最近はその希望は通らない。刑の長さによって、長期刑の施設と、短い刑期の施設で別れるしね。炊場で働く受刑者は、類(刑務所内の優遇区分)が上の者が働く。どちらかと言えば、模範囚の人が働いているよ。現役の暴力団関係者は炊場で働くことはできないね。同じ組の人間だけに大盛で出したり、炊場内で情報交換したりするからダメだと言われている。公平にできないからだろうね」
暴力団関係者が炊場で働けないなど、刑務所内にもヒエラルキーがあるようだ。また、福島と水戸の刑務所に入所した経験があるBさんは今でも“忘れられない味”があると話した。
「食事はレトルトが多かったですね。レトルトのハンバーグの具材は肉ではなくおからや豆腐。カレーも出ましたよ。ご飯は米が7対麦が3。朝の味噌汁はお豆腐とか揚げが入っているけど、ぬるかったな。
じつはレトルトのミートボールがすごく美味しくて。また食べたくて、(ミートボールの)袋を覚えていたので、出所後にスーパーに行って同じものを探したんですよ。でもどこにも売ってなかったので、お店の人に聞くと『どこで食べたんですか』と聞かれて……ごまかすしかなかった(笑)。いまだに食べたい“忘れられない味”ですよ。
受刑者には類があって、真面目に受刑生活を送ると類が上がっていくんです。5類だった人が3類に上がると食べられるお菓子の量と回数が増える。刑務所の中だと甘いものをすごく食べたくなるから、受刑者たちは類が上がるようにするんです。
よく聞くのは、府中のパンはすごく美味しいということ。お店で出すぐらいのパンで、立川の拘置所にも府中のパンが出るらしいです。札幌刑務所の麺も美味しいですよ。ラーメンにうどんにそばと、週に1回は麺が出ます。ただ、そばは延びていてぬるいので、いまいちでした。帯広や網走、旭川など、北海道の刑務所は美味しいと聞きますね。トウモロコシや鮭、ジャガイモが出てくるらしい。新潟の米も美味しいようですね。余った米を出すようですが、そもそもが美味しい米どころなので、美味しかったと聞きました。逆に沖縄はあまり美味しくないらしいです。やはり北のほうが食事は美味しいですね」
別の元受刑者のCさんはお菓子について話してくれた。
「刑務所では月に2回ほど矯正処遇日といって、受刑者が集まって話をする日があるんですが、その日は500円でお菓子が買えるんですよ。みんなポテトチップスやジュースを買って喜んで食べてますね。
府中刑務所のパンは有名ですよ。クリームパンにコッペパンなど種類があって、すごく美味しいんです。週に4回はパンが出ます。あとは札幌刑務所のラーメンが有名です。ラーメンにバターが入っていて、冷めてもストーブで温めてくれますからね。あたたかいものが食べられるのは刑務所の食事では貴重です」
3人の元受刑者に話を聞いたが、共通するのは「北海道の刑務所が美味しい」「府中のパンが美味しい」ということだ。
前出の法務省矯正局総務課広報係に府中のパンについてと、こういった受刑者の声についてどう思うかを尋ねると「パン食かご飯食かは、各施設の判断に委ねています。食事に対するご意見や感想に対して、当局から申し上げることは差し控えさせていただきます」との返答だった。
最後に、このドラマの原作である黒栁桂子著の『めざせ!ムショラン三つ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』を読んだことがあるか、ドラマ『ムショラン三つ星』を見ているかを法務省矯正局総務課広報係に聞いた。
書面では「特定の作品について、感想等を申し上げることは差し控えさせていただきます」との返答だったが、このドラマの放送開始後から同局には取材依頼の問い合わせが殺到したという。
前出のAさんは刑務所の食事についてこう話す。
「その昔は、食事があまりにまずくて暴動になったケースもあると聞いている。それぐらい食事は大事なんですよね」
ドラマでは主人公が決められた予算内で創意工夫したメニューを作り出し、その食事を食べて受刑者たちの表情が、日に日に変わっていく様が描かれていた。食は、人を更生させる重要な要素なのだろう。
写真・保坂駱駝
画像ページ >【画像】刑務所の食事をつくる “炊場”担当になったことを報告する受刑者からの手紙(他2枚)
