「本音を言えば、夫には行ってほしくなんかなかったんです……」そう語るのは、山本光子さん(仮名、山本さん家族も・60)。夫・秀雄さん(66)と息子の秀和さん(32)の職場はともに東京電力福島第一原子力発電所。同社の協力企業で働いている。
秀雄さんは40年間、原発の仕事に関わってきた。危険な仕事に向かう夫に対し、光子さんも『夫は最初からいないもんだ』と覚悟を決めてはいた。だが、17日、父子のもとに元受会社から「原発で作業員を集めている」と電話がかかってきたのだ。
「親父が行くなら俺もいく」と泣きながら言う息子を止め、父は向かうことを決意した。「お父さん、私を置いていくの?」と言はずにいられなかった光子さんへ、「大丈夫だ。無事帰ってくるから」と言い残して……。
作業を終えるまでの2日間、テレビでは刻々と変わる放射線量が発表される。光子さんはただただ夫の帰りを待っていた。そして秀雄さんは、2日後の夕方、無事、家族のもとへ帰ってきた。
だが、原発はまだトラブルを抱え続けている。今度はいつ声がかかるかわからない。「そのときが来たら行く」と語る息子の秀和さんは、今後も原発で働くつもりだという。「結局、自分にはこういう仕事しかできないっすから」と彼は言う。
光子さんは「お父さんから今の仕事を取っちゃったら……。40年以上やってきたからね」と語る。危険な現場へ向かう作業員の家族が抱える複雑な思いを、本誌で追跡ルポ。