福島第一原発の事故以降、昨年末までに東京電力を中途退社した本社社員は20代の若手を中心に約330人。例年の2倍以上にも及んでいることが明らかになった。

「退職したいちばんの理由は、この先どうなるのかという不安。原発事故後、毎日深夜まで残業し土日も休みなしの状態でした。それでも被害者の方々に申し訳ないという思いだけで頑張ってみましたが、家族のことを考えたとき、転職できるうちに辞めたほうがいいと思ったんです」

昨年、東京電力本店を退社した30代のAさんが静かに語ってくれた。現在は首都圏内の地元企業に再就職し、妻と子どもの3人で暮らしている。

「事故直後は、テレビ局が社宅前で嫌がる社員を追いかけたり……。社員だけではなく、家族にも辛い思いをさせたと思っています。社員のなかには、病院で東電の保健所を提示しただけで診察を拒否された人もいた。私もできるだけ東電の社員だということは隠しましたし、会社に出入りするときはいつも後ろめたい気持ちで。だから多くの若手社員が中途退職したのもわかります。先行きが見えませんからね」

事故を境に本店勤務だったAさんの周囲は一変。社内の雰囲気も激変し、雑談や冗談を言う機会も減ったという。社員は、”国民の怒りを買いながら電力を作ること””賠償金をどう捻出するか”という2つの仕事だけに明け暮れしていた。

「上層部の迷走ぶりに社員は振り回されました。たとえば被害者に支払う賠償金の条件が二転三転。対応した数100人の社員たちは”条件なんてどうでもいい、早く支払うべきだ”と思いつつ、社の方針なので頭を下げてどれだけ怒りを買いながら仮払いを断ったことか。ところが一転して、条件を取っ払い仮払いを支払えと。現場の社員たちが大きな不信感を持ったことは事実です」

今はもう東電とは無関係になったAさんだが、原発事故の呪縛からは逃れられないという。

「会社を辞めることで、被害者の方々からは逃げたと思われているかもしれません。私も悩みました。実際、いまでも気持ちの整理はついていません。もう少し時間がたてば、東電を辞めた自分に何ができるか、見つけられるのではないかと思っているのです――」

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