「ガンになった人は、退院してもたいがい痩せたままみたいなんやけど、僕は体形も体重も元に戻りつつある」
そう語るのは、広告・出版デザイナーの草分け・長友啓典氏(72)。’10年4月に食道ガンが見つかり、13時間の大手術を経験。しかし3週間で退院し今また第一線で活躍している。そんな長友氏が、闘病と半生を綴ったエッセイ『死なない練習』(講談社)を出版。ユーモアたっぷりの闘病記だ。
’69年にデザイナー・黒田征太郎氏とともに会社を立ち上げたころ、世は高度成長真っ只中。大口受注がひっきりなしだったという。
「夜は銀座で遊興三昧。黒田と2人で最高、年間2億円も飲食代に使った。ずっと『うまいもの食べて、うまい酒飲んで』ってな生活を40年やから『ガンになった』と言っても、誰からも『ああ、やっぱり』てな具合でな。おかげで最初はビビって絶望した僕も『まあ、なってしまったもんは、しゃあないやんか』と開き直れたんです』
振り返れば闘病生活は苦しいより笑って話せることのほうが多かった。術後、体中につけられた管が日に日に1本ずつ抜けていくと、健康体に戻っていく変化を「まるで自分が早送り映像になったみたいで」”お楽しみ”になったという。食事に関しても、
「最初はたまごボーロひとつで体中にエネルギーが充満するのがわかった。前はまったく意識しなかったことに感動する。この歳にして毎食『ごちそうさま』と心から思うようになりました」
ガンとのつきあいは「とにかく明るく考えることが大事」と綴っている。「もしダンナががんになっても、深刻になって同情するよりふだんどおりに振る舞うこと。自分がなってしまっても『まあ、ええやないか』『なんとかなる』といつも繰り返すこと。やっぱり『病は気から』なんですわ」