監督50周年記念作品であり、81本目の作品となる『東京家族』(松竹配給)が、1月19日に公開される山田洋次監督(81)。昨秋、文化勲章を受章した山田監督に、今だから明かせるという話を聞いた。
昨年の11月、宮中での皇族方と文化勲章受章者の食事会の際、美智子皇后から「渥美清さんがまずいて、寅さんをお考えになったのですか? それとも、寅さんという物語があって、そこに渥美清さんをキャスティングされたのですか?」と、山田監督におたずねがあったという。
「『男はつらいよ』の場合は最初に渥美さんがいて、彼をどうすれば魅力的に生かせるかを考えました。そして、渥美さんは、落語の”熊さん、八っつぁん”を演じることができる人だ、と。ですから、キャラクターが最初にあって、物語はそのあとから生まれました、とお答えしました」
山田監督にとって渥美清さんとのめぐりあいは、監督生活における一大転機だったという。
「ハナさん(ハナ肇・’93年死去)主演の喜劇映画シリーズの興行成績がだんだんと落ちてきて、会社は、僕の企画を受け入れないようになってきたのです。僕は、まだ若かったし、『監督を辞めて、ほかの仕事をしようか』と転職を考えた時期すらありました」
そんなときにフジテレビから話があり、渥美清さん主演のテレビ版『男はつらいよ』のシナリオを書くようになった山田監督。最終回は寅さんが、奄美でハブに噛まれて死んでしまうという内容だったが、視聴者から「なんであんな殺し方をしたんだ!」と抗議が殺到。そこで、半年間寅さんを支持してくれた視聴者の期待に応えようと、会社に映画化を申し出た。
「ところが、いまは視聴率を稼いだテレビドラマが映画化される時代ですけど、当時の映画会社は、テレビを『電気紙芝居』と言って見下していたから、映画化に猛反対。そこで、けんか腰で会社と渡り合って、こぎ着けた。現在の僕があるのは渥美清さんとの出会いと『男はつらいよ』のおかげだと思っています」