「40年の歌手生活を四字熟語で言うと『空前絶後』。二度とやりたくない。それくらいしんどかった……」と話すのは、昨年の7月17日にソロコンサートが前人未到の4千回に達し、10月25日でデビュー40年を迎えた、さだまさしさん(61)。快挙達成にあたって、これまでの歌手活動を振り返ってもらった。
「僕が、歌手を40年やれてきたのには、それなりの理由がありました。そのひとつが負債です。多額の借金を背負い、それを返済するのに30年かかりましたけど、その間は、何があろうと歌手をやめるわけにはいかなかったんです」
’81年、28歳のさださんは、中国大陸を流れる揚子江を舞台にしたドキュメンタリー映画『長江』(主演・監督・音楽=さだまさし)を製作した。映画は興行的には成功したが、それ以上に諸経費がかさみ、総計28億円、金利まで入れると35億円近い負債を個人で背負うことになる。
「なぜ中国で映画を撮ったかというと、中国は、僕のルーツなんです。僕の祖父は中国大陸からシベリアを股にかけて活動した国際探偵ーー平たく言えばスパイでした。そういう経緯があったので、昔から中国大陸にはすごくあこがれがありました。最初は、2億円もあればできるだろうと踏んで、手持ちの2億円で撮り始めたんですが、終わってみたら30億円近くかかってしまった。金利を入れて35億円近い借金は、僕の会社ではなく、僕個人の借金ですから返さざるをえない」
だが、会社を維持し、社員に給料を払い、なおかつ税金も払いながらの返済は、かなり厳しかった。10日ごとに8千万円、5千万円、1億5千万円という手形を落とさなければならなかった。
「もちろん生活も厳しかったですよ。大都市だけでなく、『神出鬼没コンサート』と銘打って、地方の小さな町でもコンサートをやりました。そうでないと生きていけなかった。返済が終わったときは、ある種の脱力感に襲われたし、『ああ、これで返済に追われなくてすむ』と思いましたね」
借金を返済する過程で感じ、学んだことのひとつが“人の情け”だったという。銀行の担当者をはじめおおぜいの人たちが、さださんを助けてくれた。さださんは「僕は本当に人に恵まれているな」と感じたことが何度もあったそうだ。
「そして、何よりも僕のファンであり、コンサートに来てくださる方たちのパワーです。僕が莫大な借金を返済できたのも、前人未到のソロコンサート4千回を達成できたのもひとえにファンのみなさんのおかげです。これからは、みなさんに恩返しをしなければいけない。ということは、僕は、歌手をやめたくてもやめられないんですよ(笑)」
さださんのファンへの“恩返し”はこれからも続いていく。