「幼いころから弟との話題の中心は『今日のお父さん』。行動がぶっ飛んでいるド天然のお父さんが、私の『ギャグ漫画』の原点なんです」
そう語るのは、自伝漫画『かくかくしかじか3』が発売されたばかりの東村アキコさん。弟で漫画家の森繁拓真さんも『となりの関くん』が累計250万部を突破し、現在大ブレイク中のミリオン作家姉弟だ。そんな2人の「ギャグの才能」を開花させたのは、なんと父の“捨て身の”スパルタ教育だった。
アキコさんの青年週刊誌初連載『ひまわりっ』(講談社)では、父・健一さんの奔放すぎる日常の姿が描かれている。その中から、東村ワールドのルーツともいえる伝説のエピソードを父娘が披露してくれた。
アキコ「私たち姉弟にとって予測不能なお父さん衝撃度1位は、間違いなく『トンファー炎上事件』。ジャッキー・チェンがはやっていて、拓真がカンフー映画に出てくる武器が欲しくなったんです。でもそんなの売ってないから、工事現場から木切れをもらってきて小刀で彫りだした。ひと月かけて息子が作ったものを、ある日、お父さんがボンボン燃やしていたでしょ!なんで燃やす?」
健一「(悠然と)まぁ、動物を彫りたいのか、トーテムポールを彫りたいのかわからない。えーい、燃やしてしまえっと思ったんでしょう。たぶん」
アキコ「えー、だって理由が『作品の方向性が見えないです』だったじゃない」
健一「言いたかったのは、100%正確なものでも、遅いものはどうにもならんということ。70%、80%でいいから、さっさと答えを出しなさいという仕事のやり方を、ずっとしてきたもんですから。INGの世界ですわ!」
アキコ「なんじゃそれ!着地点がすごすぎるから、何考えているのかわかんないんだよ」
健一さんの予測不能な行動が家族の笑いのネタになったが、調子に乗って親子関係を踏み越えると、大変なことに……。
アキコ「親戚が集まった席で、弟がじゃれ合うつもりでみんなのマネして『健ちゃん』とか言うと『誰のおかげでメシが食えるとか!息子にちゃん付けされる覚えはない!』って烈火の如く怒りはじめる」
健一「そういうのはビシャッとしたいんですよ。親しき仲にも礼儀ありですから」
アキコ「基本、九州の男なんで、根っこの部分は厳しい。『ここを越えたら』というところでいきなりスイッチが入る。ゼロか100みたいなね」
また、こんなエピソードも。九州の家は目の前の通りが細い道。健一さんは車でこすらずに通れると思っていたが、ずっと家族から反対されていた。
アキコ「みんな庭でバーベキューしていたんだけど、ガリガリ車をこすりながら、ゆっくり車が近づいてくるんです。お父さん、あのときの私の恐怖、わかる?お母さんは『アキコ、もういい。私は見ない』って無視」
健一さん「自分の車じゃできん。たまたま代車のボロだったから、試してみたんです。『仕事は一生懸命、遊びは死ぬ限り』という哲学があるんですよ。仕事は期限付きのものだから“ここまでにこれをやる”というもの。でも好きなこと、遊びはそういう制約はないわけだから、極端な話、死ぬまで徹底的に追求できるものなんです」
アキコ「やっぱりお父さんは予測不能で面白いから、これからもネタにさせてもらうわ!」