「ナレーションの収録は、1カ月に1回、4週分をためて録っています。じつはその時点では、まだ映像も何もないんです。音楽などBGMもない。あるのは台本のみ。だから毎回、せりふだけを読んで、自分の頭の中で、“仕上がりはこういう絵になる”“音楽はこんな感じで流れるだろう”という計算をしながら収録しているんですよ。後で映像と音楽ができあがったときに、私のナレーションが、ピタッとハマるかどうか、心配は心配ですけどね。でも、おかげさまで、どうやらそれがうまくハマっているようですけど(笑)」

 そう話すのは、視聴率23%超えを連発する人気ドラマ、NHK連続テレビ小説『花子とアン』で“語り”を担当されている美輪明宏さん。毎朝、美輪さんが番組の最後に言う「ごきげんよう、さようなら」のせりふは、いま子どもたちの間でブームになっている。そして大人たちからは、「心が和む」「癒される」といった意見も多く聞かれ、老若男女から大好評だ。そんな美輪さんが、今回本誌のために、美しい「ごきげんよう」のヒミツを語ってくれた。

「日本語には美しい言葉がたくさんあります。たとえば、“ごきげんよう、さようなら”の後に“ごめんあそばせ”ということばもあります。最近、“ごめんあそばせ”なんて言わないでしょ(笑)。あとは“卒爾(そつじ)ながら”……とかね。卒爾ながらというのは、『失礼ながら』という意味です。いまの時代、こういう言葉を聞いたり、知ったりすると新鮮に感じるんです。その言い方も、鼻濁音を上手に使うといいんです。このことは、皆さんあまりご存じないないのね」

 鼻濁音というのは、濁音の前に鼻に抜ける小さな“ん”をつけたもの。言葉の頭に濁音がきた場合には“がぎぐげご”でいいが、2番目以降に濁音がきた場合には、鼻濁音をつけたほうがいいと美輪さんは言う。

「そのまま“ごきげんよう”というと、ちょっと角が立って聞こえますが、鼻濁音を使うと優雅に聞こえるんです。昔の東京弁とか山の手、下町の言葉でも、鼻濁音を使っていたんですよ。『花子とアン』の放送が始まってから、皆さんに『美輪さんの“ごきげんよう”は、なぜあんなに優しいんですか?』と、よく聞かれます。何でもない。ただの鼻濁音の使い分け(笑)。そういうしゃべり方、言い方を知っているだけなんです。ですから、まずは日本語を学ぶことですね」

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