隔週連載“中山秀征の語り合いたい人”、今回は7大陸最高峰の最年少登頂を達成したアルピニスト・野口健さん(41)の登場だ。イモトアヤコのエベレスト断念について語った。

中山「この間、イモトアヤコがエベレストを断念しましたけど、やはり危険ですか?」

野口「彼女は身体能力がすごいし、トレーニングもしてるし、条件さえよければ僕は登れると思うんですよ。でも、条件が何か1つでもズレると、本当に死ぬ。今年の春、エベレストでシェルパ16人が死んだんですけど、そのうち2人は僕の隊を案内してくれていたシェルパだった」

中山「大ベテランのシェルパでも、雪崩が来たら死んでしまうんですね」

野口「イモトさんの場合は、すごいサポートチームを作ってやってるし、超一流のシェルパと超一流の日本のガイドがついているので、完璧なんです。やれることはすべてやっている。ただ、雪崩や山頂付近の悪天候となると、どんなに一流でも難しい。彼女が自分の意志で『死ぬかもしれないけど行きたい』というならいいと思うんですけど、彼女は仕事なのでね」

中山「だから、イモトが自分の命を賭けてやりたいっていうならいいんですね」

野口「まさにそうです。これは不謹慎な言い方かもしれないですけど、遭難した、山頂付近で悪天候になる、下山もできない、そういうときはシェルパも自分を守らないといけないので、先に下山してしまいます。8000メートルで吹雪になったら、彼らが先に下りるのは当たり前。僕もエベレストに行ったときに、実は2回くらいそういった場面がありましたよ。山頂付近で歩けなくなった人に『先にいけ。すぐ追いつくから』と言われました。僕はなかなか行けない。でも、彼を下ろすこともできない。見捨てるか、一緒にいて死ぬかの選択肢しかないんですよ。彼はボンベの酸素がなくなって、そこで亡くなった。僕は彼を残して山を下りるしかなかったんです」

中山「そういうことって起きるんですね」

野口「それはレアなケースではないんです。日本中から『頑張れ』と期待されている。番組からも『大丈夫です』と言われている。なんとかやってきたし、自分が頑張ればなんとかなるかもしれない。今まで経験もないのに、あれだけできるのはすごいと思います。彼女の精神的タフさも含めて。ただ、エベレストは本当に死にます。ほかの山とは違う。もし仮にイモトさんが遭難した、もう誰も助けてくれないし、助けられない。そうなったときに納得できるかってことですね。自分の思いで来たんだから、これでよかったんだと思えるか、やっぱりあの仕事受けなきゃよかったって思うのか。それで彼女が死ぬときに本望だと思わなければ、不幸な死に方ですよね」

中山「『登ってみたい』くらいのレベルだったら、エベレストはやりすぎなんですね」

関連カテゴリー: