「あ、これ!江戸川先生の使っていらしたデスクですね。私が16歳で先生のお宅に初めてお伺いしたとき、このデスクを先生に『ください』って言ったんです。そうしたら先生から『バカ言うんじゃない!』って怒られて……」

 美輪明宏さんはそう振り返った。それは63年ぶりの“再会”だった。4月から開幕する美輪さんの舞台『黒蜥蜴』。その原作者である江戸川乱歩の旧宅を今回、再訪したのだ。

 旧乱歩邸や数々の蔵書は現在、「立教大学江戸川乱歩記念 大衆文化研究センター」として保存・公開されている。乱歩との出会いについて、美輪さんが回顧する。

「十七代目中村勘三郎さん、一昨年に亡くなられた勘三郎のお父様が、私が歌っていた『銀巴里』に江戸川先生を連れていらしたんです。私、江戸川作品の愛読者だったんです。先生に『明智小五郎って、どんな方ですか?』と聞いたら、先生は『腕を切ったら、青い血が出そうな男だよ』っておっしゃった。知的でクールで素敵でしょう」

 すると、乱歩は美輪さんに「君を切ったらどんな色の血が出るんだい?」と聞いてきたという。

「私は『七色の血が出ますよ』と答えたら、先生は『面白いね、じゃあ切ってみるか。包丁持ってこい』って。私は『およしなさいまし。切ると七色の虹が出て、先生の目がつぶれますよ』と言いました。それを聞いて、先生は『君、まだ16歳?面白いコだねぇ』と言われて……。それから先生には、かわいがっていただきました」

 そんな江戸川乱歩作品の『黒蜥蜴』が、美輪さんによって絢爛たる舞台として上演されようとは、出会い当時は、2人とも夢にも思っていなかったことだろう。

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