「村長は、いちばん偉い人かと思ったら、実務的にもっと偉い人が館長なんだそうです。村長は何をすればいいんですか?と館長さんに聞くと、ようするに立っていればいいと……。私が立っていても(背が小さいから)見えないのにね」
そうケラケラと笑いとばすのは、3月15日に博物館明治村の4代目村長に就任したばかりの阿川佐和子さん(61)。これまで漫談家・徳川夢声、俳優・森繁久彌、俳優・小沢昭一と名士が担ってきたが、明治村が開村して50年目にして、初の女性村長が誕生したことになる。
最近は明治時代を扱ったドラマが花盛り。現在、放送中の大河ドラマ『花燃ゆ』、前の朝の連続テレビ小説『花子とアン』、さらには今秋から放送予定の連続テレビ小説『あさが来た』(すべてNHK)は、主人公がすべて明治という時代を駆け抜けた女性ばかり。なぜ、私たちは、今、明治時代に生きた女性たちに、心を動かされるのだろうか?阿川さんに聞いた。
「そんなことは村長でも知りませんよ(笑)。ただ言えることは、その当時は長寿の方もいたけど、今の時代と違い、病気や戦争、幼児のうちに亡くなることも多かったから、平均寿命は50歳ほどと短かったわけです。人生を考えるときも、10歳で何を思い、20歳で何を考えるにしても、今とはまったく違います。一瞬、一瞬を必死に生きなければ、激動の時代に流されてしまう。それだけ濃い人生があったのでしょうね」
『花燃ゆ』の主人公のモデルで、吉田松陰の妹、杉文の人生を振り返ると、その時々で懸命に、兄や夫、友を支えながら、強く時代を生き抜いた姿が浮かんでくる。また、阿川さんが言うように恋愛も濃厚だった。『花子とアン』では、仲間由紀恵が演じる「蓮子」の駆け落ちシーンは高視聴率を記録。そのモデルとなった白蓮事件も関心を集めたのは、記憶に新しい。
「とても厳しい時代だった半面、今ならワイドショーも真っ青という色恋沙汰も多くありました。明治を生きた人たちの恋はまさに命がけ。思い込んだら一途なエネルギーはすさまじいものがあります。携帯やメールですぐにやり取りできる現代社会とは違って、恋人に手紙を出しても、返事がくるのは1週間後。じっと待っている間はとても長いもの。そんな時間が、恋を燃え上がらるのかもしれません」
女性が今よりも生きづらい世の中ではあったが、そのなかで伸び伸びとした自由な発想を持って生きていた女性たちも少なくない。戦争、関東大震災、長男の病死と度重なる困難にもひるむことなく、前向きに生き『赤毛のアン』の翻訳を手がけた村岡花子もその1人。
「私の中学、高校の母校は、村岡花子さんと同じ東洋英和女学院。第1期生という明治生まれの大先輩たちにお話をきいたんです。彼女たちが建てられたばかりの校舎に入ってまずしたことは、階段の手すりを滑り台みたいにスーッと滑り降りたこと。実は、私たちもその校舎で同じように遊んでいたんです。女性にとって息苦しい時代と想像していましたが、短い期間とはいえ、ある程度の自由が許された学園生活をハツラツと、そしておちゃめに過ごしていたことに、とても共感を覚えました」