‘10年9月、度重なる病と体調不良で、俳優引退を発表した根津甚八(67)。ところが、石井隆監督の映画『GONIN サーガ』(9月26日公開予定)で1作限りのカムバックをすることになった。今回の作品は、根津が20年前に出演した『GONIN』の続編。病を押しての出演には、石井監督の熱烈なオファーがあった。現在の心境を、15歳年下の妻・仁香さんが明かした。
私は、根津が「もう、(映画は)いいよ」と、断るとばかり思っていたんですね。すでに引退宣言をしていましたから……。すると、根津が「やる」「どうしてもやる」と。「これが最後だ」と言いました。
結婚して、彼の出演作を一緒に見たことはないんです。息子も根津の出演作を見ていません。いちばん活躍している自分の父親の姿を知らずに育ったんです。
映画の試写は、家族そろって見ました。私の右に根津、左に息子が座りましたが、二人とも黙ったまま、最後まで何も言わなくて。いつもそう。
息子は今年、医学部に進みました。根津の父や兄が歯科医で、私の兄も医者なので、その影響かもしれません。物心ついたころから、父親が病気と闘う姿を見ていますから。父親のために、医学を志してくれたのなら、うれしいですけどね。でも医学部に進んだということは、俳優の道に進むことは考えていないということでしょう。
根津は、やっぱり息子にも俳優になってほしいんだと思うんですよ。食事のときなど、「甲斐太には、何になってほしい?」「俳優がいいかな?」なんて会話を何度かしましたし、最近もありましたから。
根津は俳優という仕事の魅力を知っている。自分が感じた魅力、喜びを子供にも感じてほしいという気持ちがあるんだと思います。根津がこの映画出演を決めたのは、息子に自分自身の姿を見せたい気持ちもあったかもしれませんね。
試写を見て、やっぱり根津は俳優でいたかったんだろうなとも思いました。彼のなかでは、すごく葛藤があったと思うんです。でも病を患い、俳優を続けられない自分を、彼はついに受け入れたんだと思います、たぶん……。
それでも最後の最後に、大好きな監督の映画に出られて、今では本当に良かったと思います。根津も、「もう、寂しさはない」と言っていました。私もないです。
最後は納得して、スクリーンから降りることができたのかな……と思っています――。