加賀まりこさん(71)の住む神楽坂にある、とあるホテルで久しぶりに再開した2人。隔週連載《中山秀征の語り合いたい人》。今回は、50年以上女優を続けてきた加賀まりこさん。語り合うなかから、いまでも“新しいこと”に飛び込むことができる秘訣が見えてきた。
中山「加賀さんといえば、マスコミに追いかけ回されていたイメージもありますが」
加賀「だから、20歳のころ、仕事辞めたいと思ったの。まだキスもしてないっていうのに記事にされちゃうと、ダメになっちゃうじゃない。そういう意味で壊れた恋の芽は、いっぱいありました。でもそれで壊れちゃうのは、縁がなかったってことなんだけど」
中山「ひとつの恋が終わってしまったり、傷ついたことがあったということですよね」
加賀「その積み重ねがいちばんのきっかけ。私は脇が甘いから狙いやすかったのかな。だけど年齢的に恋愛するのが当たり前なのに、隠すっていう意味がわからなくて。いまのアイドルもおかしいわよ、恋をしちゃいけないなんて。わけがわからない」
中山「恋愛しないとダメですか」
加賀「ホルモンバランスがおかしくなる(笑)」
中山「スキャンダラスでいうと、著名人が集まる六本木・キャンティでの『野獣会』のイメージがありますが、違うようですね」
加賀「いつもそう言われるけど、まったく関係ないから。忙しくて、そんな暇なかったもの。撮影が終わって夜中に帰ってきてキャンティでご飯食べて帰るっていう」
中山「若者がよく集って、大原麗子さんや井上順さんがいたという話でしたよね」
加賀「だけど、本当に知らないの。だってキャンティに来るお客さんは、年配の方ばかりだったんですよ。知人に誘われて、行ってみたら三島由紀夫さんや川端康成さんがいらしてびっくりしたんだから。建築家の丹下健三さんもいらした。もう錚々たる方々。コーヒー代を払って、耳をダンボにしてその方たちの話を聞きに行くようになったのがキャンティに通うきっかけで。皆さん懐ろ深いよね、どこの誰だかわからない小娘が話を聞いてても、来るなって言わない。私は常に好奇心旺盛だった(笑)」
中山「なるべくしてなる環境にいたんですね。常にやるべきことのある状況でもあった」
加賀「昭和といういちばんいい時代を生きてきたんだなって思うのよ。高度成長期で野心を持ってるのが当たり前の時代。ヨーロッパに行ったときに、誰も野心がないことにびっくりしたぐらい」
中山「僕らも昭和生まれですけど、雰囲気が違います。いまはなんでもある時代」
加賀「私は黒電話しかなかったから、そこへ行かないと誰かに会えないし、何も見られない。インターネットで商品を見ても、触った感じはわからないじゃない。お店に行って、実際に見ないと信用できないし、何も感じない。それは人間も同じね」
中山「大切にされている“感じ”とは?」
加賀「なんか“ひりひり”する昭和の時代の感覚はありますね。『藤山直美さんと共演しませんか?』と言われたら、あの天才と仕事をするなんてどういう感じなんだろうって、ひりひりするよね。それで仲よくなって、今でもご飯に行ってる。そういうのがある仕事は受けたいの。こないだの舞台も稽古に入ったらすごい面白かったし。だから何でもそう、お金になろうとなるまいと、触ってみないと、自分から1歩踏み込んでみないとダメね」