静まり返った寺の境内に、低くのびやかな読経が響く。黒い洋服で身を整えた、歌手・ちあきなおみ(68)は夫の墓に手を合わせていた。その薬指で輝いていたのは、亡き夫と愛を誓った指輪だった。
‘72年に『喝采』で一世を風靡したちあき。彼女が俳優・郷えい治さん(享年55)と結婚したのは『喝采』で日本レコード大賞を受賞してから6年後の78年だった。
「夫の郷さんは、宍戸錠さん(81)の実弟です。郷さんは、ちあきさんの歌唱力に魅せられ、結婚後は俳優を引退し、個人事務所の社長兼マネージャーとして支え続けました。特に結婚直前に郷さんの強い希望があって作られた『ねえ、あんた』は、いまも歌い継がれています」(音楽関係者)
夫・郷さんと二人三脚で国民的歌手となった彼女を不幸が襲ったのは’92年9月11日。
結婚生活14年で、郷さんが肺がんで亡くなったのだ。ちあきは荼毘に付される棺にすがって“私もいっしょに焼いて!”と号泣したという。
《主人の死を冷静に受け止めるには、まだ当分の時間が必要かと思います》
そんなメッセージを残し、彼女が休業に入ってから、すでに23年になる。休業中にも、彼女のベスト盤CDなどが発売され、そのたびに“ちあきなおみ復帰待望論”が巻き起こった。だが彼女はそんな声にも、音楽関係者の説得にも耳を傾けようとはしないという。
「ちあきさんは郷さんのお墓の近くにマンションを買い、まるで世捨て人のような生活を送っているのです。郷さんの最期の言葉は『もう、お前は無理して歌うことはないんだよ。これからは、お前の好きなことをやっていけばいい』というものだったそうですが、ちあきさんは、一生、夫のそばに居続けることを選んだのでしょうか……」(前出・音楽関係者)
いまも月命日には墓参りを欠かさないというが、本誌が彼女を目撃したのも、その墓参の日だった。キキョウやコスモスなどの秋の花を自ら切りそろえ、墓前に供えていたちあき。1時間ほどの対面を終え、墓地を後にする彼女の頬には涙が伝わっていた。