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「日本には古来“しのぶ”という、よき伝統がありますが、私のもうひとつの祖国であるハンガリーは、真逆なほどに情熱的なところがある。音に対してもそうで、私はその好対照な文化の中で演奏を学んできたのです」

 

スマートな横顔からのぞく白い歯がなんとも魅力的なイケメンは、若手の実力派ピアニスト・金子三勇士(26)。日本生まれの父が45年前、欧州の親日国であるハンガリーに滞在していた際に知り合った情熱的な女性と結婚。そして生まれたのが彼だ。

 

「ハンガリーの実家は、音楽一家です。音楽研究者である祖母が、幼いころからよく歌を歌ってくれました。ピアノは物心つくころから慣れ親しんできた、体の一部のような楽器なのです」

 

ハンガリーで英才教育を受けたピアノの申し子が、その才能を開花させるのに時間はかからなかった。名門・バルトーク音楽小学校から飛び級で国立リスト音楽院に。帰国後、’11年に22歳でホテルオークラ音楽賞を受賞し注目された。そんな金子にも、「2つの祖国」を持つ者ゆえのジレンマの日々があったのだと、いま振り返る。

 

「ハンガリーにいれば『日本人ならではの……』とおとなしさを指摘される。日本では、ハンガリー育ちを『タッチが大胆すぎる』と言われたり……。自分自身、どうすればいいのかわからない時期がありました」

 

しかし、そこで金子を支えたのも、やはりピアノだった。ベートーヴェン、モーツァルト、ショパンなど歴史的な名作曲家の楽曲を、音符一つひとつまで繰り返し研究することで、ある境地に至る。

 

「音に国境はありません。2つの祖国を持つ私は、『どっちつかず』ではなく、両国の国民性を持ち合わせている。むしろ恵まれているのだと思えたんですね。じつはピアノも、冷静と情熱のあいだを行き交う、繊細であり大胆な表現が必要とされる楽器だったことに、そのとき気づいたのです」

 

プロデビューして5年になる今年、新たなチャレンジをアルバムに収めた。

 

「ベートーヴェンなどに比べると研究者が少ないリストの楽譜を見直し、彼が生きた時代の音を極力、再現したい。その思いに駆られて没頭していました」

 

その成果は9月18日、東京オペラシティでのリサイタルでも楽しめる。

 

「音楽は生ものです。何百年前の作品も、その時代の息吹をたたえているように、私の“現在の音”をいっしょに感じていただけるとうれしいです」

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