「今度、神戸でドラマの撮影をやるんだ。10日間くらい取られるかな。今日から、忙しくなるよ」
2月13日、都内の喫茶店に姿を見せた柄本明(70)は同席した劇団関係者らしき女性にそう語った。台本を手に持ちながら、これからについてゆっくりと話し始める。その顔には、すっかり笑みが戻っていた――。
昨年10月27日、最愛の妻・角替和枝さん(享年64)が原発不明がんのために亡くなった。近所の喫茶店で談笑するのが、夫婦の日課だったという柄本。1月30日の「お別れの会」ではラブレターを読むかのように、妻との思い出を涙ながらに語っていた。
「いっしょに行った喫茶店はまだ行けない。思い出しちゃって……」
だが亡くなってから3カ月。妻とすごした場所ではないものの、喫茶店通いを再開したようだ。
そんな“妻ロス”から回復できたのは、あのニュースも大きく影響したことだろう。息子の柄本佑(33)とその妻の安藤サクラ(33)が、「第92回キネマ旬報ベスト・テン」で主演男優賞と主演女優賞をダブル受賞したのだ。夫婦での受賞は史上初。2月10日の授賞式で佑は、「(母は)きっと会場のどこかにいると思います……」とスピーチ。安藤も亡き義母を思い、涙を流していた。
そこで本誌は喜びの声を聞くべく、都内の自宅を訪れた。すると、近所の喫茶店に出かける柄本の姿を目撃したのだ。2時間後、店を出てきた柄本に記者は声をかけた。
――佑さんご夫妻のダブル受賞、おめでとうございます。
「いやいや、まあよかったですよ」
穏やかな口調で語る柄本。受賞について聞くと照れくさいのか、人ごとのように語る。
「そりゃあ、うれしいんじゃないですか」
――ご夫婦そろって主演賞を受賞するのは、史上初の快挙だということですね。
「なんか初めてみたいですね」
――奥さまへのご報告はされたのでしょうか?
「いや、まあ別にね。仏前に手を合わせて……だいたいそんなところです」
安藤が角替さんを思い号泣していたことについて触れると、「ああ、そうなんだ……」と驚いたように声を上げる。そして安藤が出演中の朝ドラ『まんぷく』は、角替さんが出演を後押しした作品だ。「ご覧になっていますか?」と聞くと、「ええ、ええ」とうれしそうに答える。記者が「今回のW受賞の報せは、奥さまからのプレゼントかもしれないですね」と聞くと、柄本はこう答えた。
「そうですね……」
最後は恥ずかしそうに笑うと、記者に会釈をして家の中へと入っていった。
徐々に明るさを取り戻しつつある柄本家。その様子を、天国の角替さんもきっと“萬福の”笑顔で見守ってくれていることだろう――。