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「動」の中に、どう「静」を取り入れるか――。

 

2月24日、25日の2日間に渡り、東京・南青山のスパイラルホールで日本舞踊の梅津貴昶、バレエの首藤康之、ヒップホップのTAKAHIROという異なる分野で“踊り”を職業としている3人が、トークショー「天才の舞台裏」を開催した。

 

「振り付ける舞台裏」をテーマにした25日、欅坂46やA.B.C-Z 、超特急などの振付をしているTAKAHIROはこう語った。

 

「一番憧れるのは、静寂の時を使える振付師の方です。作っていく途中には、どんどん足したくなってしまいます。音を聞けば、その音(の振付)を足したくなる。だけども、一番強い振付は何もしない瞬間をどう作るか」

 

TAKAHIROはA.B.C-Z『テレパシーOne! Two!』のミュージックビデオで途中、横に並んだ5人が一瞬止まった後にウェーブを作る動きを取り入れている。A.B.C-Zの先輩である少年隊の東山紀之は、書籍『天才の背中』(光文社)で梅津貴昶と対談。1990年の舞台『なよたけ』で初めて指導を受けてから親交を深めている東山は、国立能楽堂で行なわれた梅津の『道成寺』の乱拍子を見た時、踊りへの価値観が変わったようだ。

《家元のその踊りが、僕らからするとすごく不思議で。僕らは空間というのは動き回って埋めるというイメージがあったんですけど、家元は足の甲を上げる、たったそれだけで空間を支配するんですよね》
《動くこと以上に静寂が大事なのかも、という思いにも至ったんですね》

 

少年隊は曲中にバック転をするなどアクロバティックなイメージがあるが、静寂を利用して魅せることもある。

 

1989年発売の『まいったネ今夜』では、イントロや間奏で華麗に舞っているが、歌に入る前に3人が一瞬止まって間を作る。曲中でも3人同時にストップを掛け、視聴者の目を惹き付けてからまた踊り出す場面がある。同曲の振付は、ジャPAニーズのメンバーとして田原俊彦のデビューから約2年間バックダンサーを務めたことでも知られるボビー吉野だ。

 

ボビーは、1988年発売の田原俊彦の『抱きしめてTONIGHT』『かっこつかないね』などでも振付を担当。『抱きしめてTONIGHT』以上に難度の高い『かっこつかないね』の終盤では田原がバックダンサーである乃生佳之と木野正人とともに約4秒間動きを止め、その後にまた激しく踊り始めている。

 

ダンスを見る際はどうしても「動」の場面ばかりに目が行きがちだが、「静」を利用することで「動」がより際立つようだ。トークイベントでは、「相手の特性に合わせて振付をする」という心構えについても話が及んだ。

 

TAKAHIRO:一番大事なのは、その人の大ファンになること。それが1番の近道だと思います。

 

梅津:そうね。欠点を指摘するより、長所を褒めたほうが伸びるわね。

 

TAKAHIRO:相手を好きでないとできないですよね。

 

梅津:どんな人にも長所があるんですよ。ちょっと間が抜けていると思っても、その人の長所がある。それを見出した時は、絶対その人伸びますよ。

 

首藤:長所を伸ばせば、短所はどっか行ってしまいますよね。

 

自分がしたいことを相手に強要するのではなく、相手のことを思いやり、どうすれば良さを引き出せるかを熟考する。そのためには、自分が1つでも多くの引き出しを持っていなければならない。日々の勉強を欠かさない姿勢や演者に対する優しさがあるからこそ、梅津貴昶、首藤康之、TAKAHIROは業界で引く手あまたの人材なのだ。

 

【文:岡野誠】

ライター・芸能研究家。研究分野は田原俊彦、松木安太郎、生島ヒロシ、プロ野球選手名鑑など。本人へのインタビューや関係者への取材、膨大な資料の緻密な読解を通して、田原俊彦という生き方を描いた著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)が話題。

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