《当日は、みどりは広島出張中、私は中国出張から深夜便で帰国とすれ違いだったのですが、まさか帰宅の数時間後に、みどりの訃報を受け取ることになろうとは、思ってもいませんでした》
フェイスブックで“妻との別れ”について心境を明かしたのは元参議院議員の水野誠一さん(73)。女優・木内みどりさん(享年69)が急逝したのは11月18日未明。死因は「急性心臓死」と発表された。逝去の前日には広島市のスタジオで朗読の収録を行い、懇親会では楽しく語り合っていたという。彼女が倒れたのは、懇親会後に戻ったホテルだった。木内さんの娘・頌子さんも父・誠一さんのフェイスブックで悲しみを吐露している。
《あまりに突然のことにぼんやりしながら、怖いほど悲しい気持ちでいっぱいです》
家族や知人たちが驚いたのは、その69歳という若さのためだけではない。木内さんと古くから交流がある映画関係者は言う。
「“急性心臓死”と知人から聞かされたとき、思わず『えっ本当に?』と、聞き返してしまいました。それというのも木内さんは、脂肪や塩分に気をつけた食事を自分で作ったり、ウオーキングに励んだりと、“健康的な生活”を心がけていたからです。人間ドックも夫婦で毎年いっしょに受けていました。そのきっかけになったのは、10年ほど前に夫の水野さんが心筋梗塞で倒れたことだったそうです」
彼女は雑誌の対談でも次のように語っている。
《(夫は)心筋梗塞で倒れて手術を受け、心臓が健康時の7割くらいの働きになっているそうです。(中略)食べるものや生活のリズムにも細心の注意を払います》(『婦人公論』’11年6月22日号)
10年も夫といっしょに健康生活を送ってきた彼女の命を奪った「急性心臓死」とは? 心臓疾患に詳しい、おおどおり鎌田内科クリニックの鎌田潤也院長は言う。
「発症してから24時間以内に死亡すると“突然死”となります。心臓が原因ということですから可能性として高いのは虚血性心疾患。心臓に十分血がいきわたっていない状態で、代表的なものには心筋梗塞や狭心症があります」
血管が老化し、動脈硬化が進み、血流が悪くなることで発症する虚血性心疾患。女性は更年期までは動脈硬化を起こしにくいというが、更年期以降はリスクが急増するという。
「女性の動脈硬化が進みにくいのは、女性ホルモン・エストロゲンのおかげです。しかし閉経後は、エストロゲンが減少し、虚血性心疾患を発症しやすくなります」(鎌田院長)
恐ろしいのは、急性心臓死に至るまで自覚症状がないことだという。もりした循環器科クリニックの森下浩院長は言う。
「動脈硬化が進むと血管壁にプラークといわれる異常な組織が形成されるようになります。心臓の冠動脈のプラークが破綻(破裂)し、血栓が生じ、血管がふさがれることで突然、心筋梗塞を起こすケースもあります。そういった場合、予兆はまったくありません。ですから血圧が高かったり、脂質異常などが認められたりするときには、早めに動脈硬化の検査をする必要があると思います」
また鎌田院長も次のように語る。
「基本的に“予兆”はありません。突然発症するのです。木内さんも自覚症状はなかったと思います。リスクを減らすためには、まず糖尿病などの持病の治療を行うことが大事です。気になる方は、検査の際に、血液中のエストロゲンの量を調べてもらうのもいいかと思います」
予兆すらなかったものの、木内さんは生前、死を迎える準備を始めていたという。所属事務所の関係者は言う。
「(木内は)もし亡くなったときも、大きな葬儀や告別式は行わないことを、あらかじめ夫婦で決めていましたので、家族だけでお葬式を挙げました」
6年前、木内さん自身も新聞のコラムでこんなことを書いていた。
《どう生きていくかを考えることは勿論ですが、どう死んでいくかに思いを巡らすことも大切と思い、ここ数年、いろいろと準備・勉強・練習しているのです。(中略)私の希望は、なるべく迷惑をかけずにひっそりと消えていきたいので、セレモニーなし・読経なし・戒名なし・可能な限り簡素な棺桶…。》(『しんぶん赤旗・日曜版』’13年4月14日号)
コラムによれば、なんと彼女は、木製ではなく、段ボールでできた“エコな棺”まで探していたのだ。家族だけではなく、親交のあった俳優や芸能人など、彼女の死は大勢の人々に大きな衝撃を与えた。だが娘の頌子さんも《ひとり旅先ですっといなくなってしまうなんていかにも母らしく》と、語ったように、“ひっそりと消えていきたい”といった生前の願いはかなえられたのかもしれない。