そして2つ目が、“がん”だ。12年にも食道がんを発症したなかにしさんは15年2月、リンパ節にがんが見つかった。本誌16年5月3日号では、その闘病生活について以下のように語っている。
2度目のがんで、長時間にわたる手術を経験したなかにしさん。しかし、がんを取り除くことはできなかった。さらにがんが成長し、気管支を突き破る可能性も残っていたという。
「『いつ暴発するとも知れないピストルを頭に突き付けられた状態』で日々を過ごすことになった。先生からは繰り返し『1日1日を大切にしてください』『週単位で人生を考えてください』と言われるし、本当に怖くて」
「自分の密葬やお別れの会の段取りをしたり、戒名を考えたり……」
死を覚悟するほどのがん闘病。その影響で、なかにしさんの妻である由利子さんはうつ状態になってしまったという。そして、なかにしさんは闘病しながら由利子さんの精神面も支えることとなった。
がんを切除できないまま退院したなかにしさんは、抗がん剤による治療を始めた。4回にわたる投与、そして12回もの陽子線治療ーー。すると奇跡的に治まったという。
■僕は「書くこと」にしか興味がないですから
なかにしさんは「1度目のがんとの闘いは、わかりやすく言うと『女房とともに闘い、勝利した』という感じだったけれど、今度の治療はもっと孤独なわけ」といい、こう続けていた。
「がんと闘いながら思ったのは『僕がいなくなったら女房は大変だ』ということが、ものすごく如実にわかったということ。つまり彼女への思いや“愛”がわかった」
「これからは女房をより大事にして生きていかなければいけないと思うし、もの書きとしては、命のある限り書き続けていきたい。僕は『書くこと』にしか興味がないですから」
苦しい闘いを乗り越えてきたなかにしさん。今は、安らかな気持ちで眠っていることだろう。