育った場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代にはやったドラマや歌の話。同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。
「『抱きしめたい!』は、いわゆる“トレンディドラマ”の草分け的な存在といえます。それまでは松田聖子さんや小泉今日子さんを代表とする、あまり背が高くなく、セミロングやショートカットの似合う、かわいい服を着たアイドルが人気でした。いっぽうのダブル浅野はすらっと背が高く、ロングヘアで、ラルフローレンなどのブランドものをカジュアルに着こなしており、対照的。とくに浅野温子さんがワンレンをかきあげるしぐさは“カッコイイ女性”の象徴となりました」
こう語るのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(53)。『抱きしめたい!』は、’88年夏にフジテレビ系のナショナル木曜劇場の枠で放映されたドラマだ。
スタイリストとして自立しているキャリアウーマン・麻子(浅野温子)と、幼稚園時代からの腐れ縁で、麻子に甘え、ときには麻子のボーイフレンドも誘惑する自由な専業主婦・夏子(浅野ゆう子)の2人の主人公が、バブル景気に沸く都会的なライフスタイルのなかで織りなすラブコメディ。
平均視聴率は18.5%で、当時の『女性自身』でも《「抱きしめたい!」ダブル浅野 気になるファッション・カタログ あの服はここで買える!》《3週連続 浅野温子大研究》という特集記事が組まれているほどの社会現象となり、連続ドラマ放送後も、スペシャル版が4作も放送された。
こうした現象には、社会的背景があるのだという。
「’86年に男女雇用機会均等法が施行されましたが、本格的に企業に導入されたのは’90年代半ば以降。当時の女性は、まだ一生稼げる仕事に就くことは難しく、25~26歳で肩たたきにあい、寿退社。男性が家長で、女性は専業主婦になるのが当たり前でした」
女性が幸せに生きるためには“いい男を捕まえる”こと以外に、ほぼ選択肢のない時代だったからこそ“3高(=高身長、高学歴、高収入)”なる言葉も流行した。
「デートは“連れていってもらう”もの。男性にリードされ、レストランではおごってもらい、ドライブでは助手席でナビをするのが普通で、『トイレに行きたいって、男性の前では言えないから、我慢していた』という女性もたくさんいました。“奥ゆかしさ”を求められていたんですね」
そんな女性を解放したのが、ダブル浅野なのだという。
「『抱きしめたい!』のなかでダブル浅野は、男性にこびることなく、ハイヒールを履かず、ぺたんこ靴でアクティブに動き回る。不倫や浮気など、女性が男性を振り回す恋愛の描き方も新しかった。黙っていてもモテる2人が自己主張する姿が“私も、ああなりたい”と支持を集めたのでしょう」
伝統的な日本家屋や団地住まいだった当時の女性たちにとって、ダブル浅野が見せた世界は、おしゃれなマンションで自由に暮らし、女性だけでカフェバーに出かける、キラキラしたシティライフを疑似体験できる場でもあった。
「さまざまな制約のある王女が、街に飛び出し、出会ったイケメン記者をリードして、バイクに乗ったりやりたかったことを実現していく映画『ローマの休日』(’53年)を彷彿させます」
ダブル浅野が提示したのは“自己主張できる女性はカッコイイ”という、当時の日本ではまだ新しい価値観だった。
「女性自身」2021年2月2日号 掲載