■「溝口健二や河瀨直美と競うような作品を作り上げられれば」
いっぽう、それぞれに過渡期ゆえの課題もあると久保氏は指摘する。
「タイBLは編集に雑さを感じることがあります。『どうしてこんなショットのつながりになるんだろう?』と気になる点が多々あります。
あと大学や学校など、いわゆる“学園もの”の物語が同じような空間で繰り広げられるんですね。ちょっとハイランクだったり。同性愛以外にも多様な性表現(見た目や言動などで表す性)を描く点も魅力だと思いますが、『Manner of Death』のようにさらに設定の幅が広がると、より多くのファンが生まれるのではないでしょうか」
そして日本のBLについて久保氏は、自身の体験談を交えて話す。
「実は男性同性愛者の登場する映像作品について調べていた際、『そういう枠で作品を紹介しないで欲しい』という意見が芸能事務所から出るケースもあると知りました。たとえ俳優がその役を演じていなくてもです。まだまだ同性愛嫌悪が根強いのではと考えています。
また作品で同性愛をテーマとして扱っているにもかかわらず、制作陣が配慮に欠けた発言をすることも多々あります。そのことで映画への興味をなくしてしまう人たちもいるはず。制作陣や宣伝配給側が世界水準の価値観を学び、アップデートし続けることも大事だと思います」
久保氏は「日本で同性愛を描く作品が増えるのはいいこと」といい、「タイBLブームで、さらに後押しされるのでは。“同性愛の商品化”には注意が必要ですが、もしかするとBL作品は日本映画界の興行的な面で、希望となりうるかもしれません」と期待を寄せる。
「日本のBL漫画には、もともと色々なタイプの物語があるんです。高齢のキャラクターもいますし、それぞれの愛情表現があります。つまり、直接的な“愛情の示し方”ばかりではないということ。そんな多様な男性同士の物語を映像化するには、丁寧で巧みな脚本づくりと“誰も傷つけない”演出への強い志が必要です。
BL映画は原作が豊富で、マーケットも出来上がっています。それは編集だったりカメラワークだったり、音楽だったり、創作面で挑戦できる土台があるということ。作品として、例えば溝口健二監督や河瀨直美監督と競うようなものを作り上げられれば、国内外での日本映画の評価も高まりますし、映画界に新たな風を吹き込むことになるかもしれません」
期待を乗せたBL映画。次はどんな作品が届けられるだろうか?