ある日突然、妻と2人の子どもが自分の目の前から消えてしまうーー。西島秀俊(50)が10月10日スタートの新ドラマ『真犯人フラグ』で演じるのは、そんな“悲劇の夫”役だ。
大ヒットしたドラマ『あなたの番です』(19年)のスタッフが再集結したというだけあって、その内容や今後の展開に期待が高まっているが、それにしてもここ数年の西島は、「悲劇的な境遇に見舞われる夫」役が板についている。
たとえば、公開中の映画『ドライブ・マイ・カー』(21年)では、不倫していた妻がくも膜下出血で突然死してしまうし、映画『人魚の眠る家』(18年)では、娘が脳死状態になり、それを受け入れられない妻の精神状態がどんどん不安定になっていってしまうし……。ほかにも映画『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』(14年)やドラマ『流星ワゴン』(15年)など、枚挙にいとまがない。
特に、映画化もされた主演ドラマ『MOZU』(14年)で爆弾テロにより妻を失った男を演じてから“悲劇の夫”役が増加。西島が、家族が不幸に見舞われる“悲劇の夫”を演じた作品は14年以降の7年間で11作以上にのぼる。
■追い込まれたときの輝きはアラフィフ俳優のなかで随一
それではなぜ、西島秀俊はこんなにも数多くの“悲劇の夫”役を演じ、さらにはそれが抜群に似合ってしまうのか。脚本家で映画ライターの竹内清人さんはこう語る。
「西島さんはとにかく“ゆらぎの演技”がうまいんです。たたずまいや表情だけで芝居ができるから、置かれた状況をどうやって受け止めるのか、という表現がすごくビビット。説明的なセリフを省いてもシーンを成立させてくれるので、脚本家からすると理想的な役者さんですね。アラフィフの俳優は実は層が厚くて、魅力的な方もたくさんいますが、追い込まれた状況での輝き方は西島さんが随一でしょう。浅野忠信さんだとちょっとささくれた感じになるし、大沢たかおさんだと頼りがいがありすぎる。西島さんの緻密で繊細な“ゆらぎの演技”が“悲劇の夫”役にピッタリなんだと思います」
たしかに、ドラマ『奥様は、取り扱い注意』(17年)のようなコメディ作品であっても、西島からはどこか切なさや哀愁が感じられる。そして、そんな“ゆらぎの演技”は一朝一夕で身につくものではなく、彼の俳優人生のなかで培われてきたものだという。
■苦労人時代に映画で得た“演技の引き出し”
「西島さんのキャリアはテレビドラマでスタートしていますが、主役ではなく二番手、三番手ということが多かった。しかも、民放のドラマにまったく出演していない期間もあったんです。その時期、彼は活動の拠点を映画に置いていた。黒沢清や北野武といった、極力セリフを排して、役者の演技に委ねるタイプの監督と仕事を重ね、演技の幅が広がったんだと思います。ただあのルックスですから、若いうちはどうしてもイケメンキャラを背負わされがち。20代、30代のころは、映画『Dolls』(02年)や『さよならみどりちゃん』(05年)のように、女性を追い込むだめんず役が多かった印象があります。それが、歳を重ねていい感じに“枯れた”ことで、映画で培われた、セリフに頼らぬ演技力や芝居の引き出しの多さにルックスがマッチしていった。年齢的にも、夫や父親の世代となり、役柄の幅も広がったのではないでしょうか」
実際に西島は、20代後半から30代前半までテレビドラマへの出演がいっさいないにもかかわらず、映画には絶え間なく出演し続けている。30代以降、徐々にテレビドラマに復帰し始めると、40代に差し掛かって一気に主演作が増えたのだ。もしかしたら、この紆余曲折あった俳優人生も“悲劇の夫”役に説得力を持たせる要因のひとつなのかもしれない。
映画で培われた“ゆらぎの演技”や追い込まれたときの輝き、“枯れたイケメン”という絶妙のルックスに、意外と苦労人な経歴ーー。どれをとっても、“悲劇の夫”役は西島の真骨頂といえそうだ。『真犯人フラグ』でも、その真価が発揮されるのが待ち遠しい!