住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代に大ブームとなったドラマの話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’80年代”を振り返ってみましょうーー。
「おしんが“口減らし”のため、雪の中、船に乗せられ、奉公に出されるとき、父親を演じる伊東四朗さんが叫びながら必死で追いかけるシーンは、あまりにも有名です。娘を米一俵と引き換えた父親の、複雑だけれども確かな親子の愛情を感じました」
そう話すのは世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(53)。
貧しい生活を強いられ、苦労続きの人生でも前を向き、懸命に生きていく姿を描いた女性の一代記『おしん』(’83~’84年・NHK)は、最高視聴率62.9%を記録した歴史的ドラマだ。
「小学校や中学、高校に通っていて見られなかった子どもたちも、家に帰ると母親や近所のおばさんたちが“今日のおしん”を話題にしていたので、自然とストーリーを理解できていました」
このころ青春時代を過ごしていた世代の多くは、すでに“豊かな生活”を享受し始めていたが、その“豊かさ”と引き換えに、何か大事なものを失っているのではないかと疑問に感じてもいた。
「『おしん』により『“日本人の心”を忘れずにいたい』という気持ちが湧いた人も多かったと思います。もとよりメーンの視聴者である親や祖父母は実際に貧しさを経験した世代。結果、全世代の心に響いたのではないでしょうか」
造語『オシンドローム』は、第1回新語・流行語大賞の金賞に輝いた。
日本にとどまらず、全世界で放送された『おしん』。イラン・イラク戦争下にあったイランの国営放送での視聴率は、なんと90%を超えていたのでは、といわれている。
「おしんの青年期を演じた田中裕子さんは“ジャパンビューティ”を象徴する一人とも言われ、海外での人気も高かったそうです。同じく朝ドラの『マー姉ちゃん』(’79年)では、主役の妹に当たる長谷川町子さん役を明るいキャラクターで演じましたが、『おしん』では対照的に、人生の辛酸がにじみ出るような役柄に挑戦しました」
そして、強烈な個性を放っていたのが母親役の泉ピン子。
「『テレビ三面記事ウィークエンダー』(’75~’84年・日本テレビ系)での番組リポートなどバラエティ色が強かったピン子さんですが、圧倒的な演技力を見せました」
役者を光らせたのは、原作・脚本を手がけた橋田壽賀子さん。
「『幸せなんて、人がくれるものじゃない。自分で見つけるものなんだ』など、普遍的に心に響くセリフがちりばめられていたことも、世界中で支持された、大きな要因だったと思います」