今年は史上最多6,017組の漫才師が出場した『M-1グランプリ2021』(ABC・テレビ朝日系)。12月19日の生放送で、決勝進出者9組と敗者復活戦から勝ち上がった1組、計10組による漫才の日本一をかけた熱い戦いが繰り広げられる。
決勝進出コンビは、真空ジェシカ、ゆにばーす、ロングコートダディ、もも、オズワルド、ランジャタイ、インディアンス、錦鯉、モグライダー(以上、準決勝での出場順)と、敗者復活戦で勝ち上がった1組。
今大会にエントリーするために芸人に復帰し、3回戦進出を果たしたインタビューマン山下が『M-1グランプリ2021』決勝の展望をつづった。前編は真空ジェシカからオズワルドまでの5組。
■真空ジェシカ(川北茂澄/ガク)
初の決勝進出を果たした真空ジェシカは学生お笑い出身。直近3年のM-1チャンピオンの霜降り明星、ミルクボーイ、マヂカルラブリーも学生時代からお笑いを始めているコンビなのだ。彼らが優勝すると4年連続となり、さらに学生お笑い勢の強さを印象づけることになる。
多種多様な設定でボケの切り口も新しく、どんどん新たなネタにチャレンジしている彼らは同業の芸人からの評価も高い。スピードワゴンの小沢一敬さんは2、3年前から絶賛しており、今年の始めに真空ジェシカの決勝進出を予想して見事的中させた。
彼らのネタは少し難解なため、見る側が前のめりになり、ネタを理解しようとしないと楽しめないところがある。準決勝は即完売となるプラチナチケットを手に入れたお笑い好きの観客だったため、彼らのネタで会場は沸いていた。
しかし、決勝はコアなお笑いファンばかりではない、一般的なフラットなお客さんなので彼らの面白さを、はたして理解してくれるのか少し気がかりなところではある。
■ゆにばーす(川瀬名人/はら)
3年ぶり3度目の決勝進出を果たしたゆにばーすはファイナリスト唯一の男女コンビだ。王者になれば一夜にして芸人人生が変わると言われるM-1グランプリ。しかし川瀬名人は優勝したら芸人引退を宣言している。
このことから川瀬名人は変わり者扱いされているのだ。しかし引退の理由を聞くと、M-1で優勝するために芸人になったので、その目標が達成されれば芸人を辞めるという、実はすごく筋が通っている宣言だった。
川瀬名人はM-1の傾向と対策をもっとも理解している芸人と言っても過言ではない。
吉本芸人は自社の劇場を多く抱えているため、外のライブにあまり出ることはない。しかし吉本ライブと外のライブのお客さんとでは、ウケるポイントが微妙に違うという。そこで吉本興業所属のゆにばーすは積極的に外のライブに出演し、ネタの調整を重ねているのだ。
決勝に過去2度進出している経験と、長きにわたる分析に加え準決勝では漫才のスタイルをマイナーチェンジしてきており、笑いの量も多く文句なしのできだった。
今年こそは、聞きたいようで聞きたくない川瀬名人のM-1史上初の芸人引退宣言が飛び出すかもしれない!
■ロングコートダディ(堂前透/兎)
初の決勝進出だが2020年の『キングオブコント』(TBS)ではファイナリストになっており、どちらかと言えばコントが得意なイメージのコンビだ。
準決勝はしっかりとしたパッケージになっている漫才で、天然っぽいところがある兎さんのキャラもちゃんと生かされたネタだった。キングオブコントのファイナル経験者ということもあり、舞台も広く使っているためネタが見やすく完成度も高い。
関西の芸人が東京でネタをするときに、お客さんの認知度の低さから不利になる場合がある。ロングコートダディは大阪吉本だが、コロナ感染の影響で今回準々決勝の会場が東京になった。しかしそんな影響は全くなく、めちゃくちゃウケていたそう。
もし準決勝で披露したネタを1本目にやれば大ウケすることは間違いない。そうなると2本目のネタの強さがカギとなる。
■もも(せめる。/まもる。)
結成4年目で初の決勝進出を果たし、ファイナリストの中で、もっとも芸歴が浅く知名度が低いコンビ。
2019年はミルクボーイがそうだった。その年にテレビで、はじめて漫才をやったのが、なんと優勝した『M-1グランプリ2019』だったのだ。そう考えると知名度は勝敗にあまり関係ないことがわかる。むしろメディアでネタをやってなかったことが、ネタバレせず、有利に働いたともいえる。
ももとミルクボーイにはもう1つ共通点がある。ミルクボーイは「行ったり来たり漫才」と呼ばれる「型」がある。ももも、お互いのことを言い合う「型」の漫才なのだ。
型がある漫才は年数を重ねれば重ねるほど鮮度が落ちてくるため賞レースでは不利になる。そうなると、ももは今回初進出ながら優勝を決めておきたいところだ。
■オズワルド(畠中悠/伊藤俊介)
3年連続で決勝進出し、19年は7位、20年は5位と年々順位を上げてきている。さらに今年7月に行われたM-1の前哨戦と言われている『ABCお笑いグランプリ』(ABC)でも優勝している。
今年の予選ではオズワルドが登場した瞬間のお客さんの拍手がすごく大きくて、かなり高い期待値を感じる。オズワルドもしっかりとその期待に応え爆笑をかっさらっていた。今年の大本命はオズワルドで間違いないでしょう。
さらに、オズワルドの準決勝でやったネタが新ネタではなかったのだ。ということは、まだ決勝用に温存している新ネタがあるかもしれない。
はたしてどんなネタを見せてくれるのか今から楽しみだ。
【PROFILE】
インタビューマン山下
1968年、香川県生まれ。1992年、世界のナベアツ(現・桂三度)とジャリズム結成、2011年に解散。同年、オモロー山下に改名し、ピン活動するも2017年に芸人を引退しライターに転身。しかし2021年に芸人に復帰し現在は芸人とライターの二足のわらじで活動している。