住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、毎週見ていたドラマの話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’90年代”を振り返ってみましょう――。
「’90年代の日本ドラマ史に残る名作といえば、まず『ずっとあなたが好きだった』(’92年・TBS系)が思い浮かびます。もちろん立役者となったのは、強烈なキャラクターだった佐野史郎さんが演じる冬彦さんと、野際陽子さんが演じる母。『冬彦さん』は新語・流行語大賞の流行語部門で金賞に輝いたほどでした」
そう話すのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(54)。
だが、ドラマの主人公はあくまで賀来千香子演じる美和。冬彦さんとお見合い結婚後、元カレ(布施博)と出会い、心を通わせていくラブロマンスなのだ。
「ところがドラマで注目を集めたのは冬彦さんの異常性。脚本家・君塚良一さんの著書によると、放送された翌日のロケ現場では、周囲の人が佐野さんを見た瞬間に、怖がって逃げたそうです」
■時代を先取り『毒親』『ストーカー』を問題提起
古い木馬に乗るシーンなど、見ているだけで背筋が凍るような冬彦さんの行動に、視聴者はくぎ付けになった。
「息子を過剰なマザコンにした“毒親”や、第2弾ともいえる『誰にも言えない』(’93年・TBS系)で描かれた“ストーカー”行為など、かなり時代を先取りしたテーマを扱っていたことがわかります」
回を追うごとにファンが増え、13%だった初回視聴率が、最終話には34%を超えるほど急上昇。
オープニング曲に使用された『涙のキッス』も大ヒットし、サザンオールスターズにとって初のミリオンセラー(約155万枚)に。
「“ドラマのTBS”と呼ばれていたように、向田邦子さん脚本の『時間ですよ』(’65~’90年)や『寺内貫太郎一家』(’74年)、学園ドラマの『3年B組金八先生』(’79~’11年)など、良質なドラマを作り続けていました。そのなかでも“冬彦さん”はかなりの異色。新しい風を送り込んだのではないでしょうか」
それは、番組を手がけた有望な若手スタッフの功績だろう。
プロデューサーを務めた貴島誠一郎氏は『ダブル・キッチン』『誰にも言えない』(ともに’93年)、『愛していると言ってくれ』(’95年)とヒット作を連発。
『半沢直樹』(’13年、’20年)で演出を務めた福澤克雄氏は、演出補だった。
「そして脚本家の君塚良一さんは『踊る大捜査線』(’97年・フジテレビ系)シリーズで有名です」
冬彦さんは、現在の日本のドラマ界を作り上げてきた若き才能が集結して生み出した、究極のモンスターキャラだったのだ。
【PROFILE】
牛窪恵
’68年、東京都生まれ。世代・トレンド評論家でマーケティングライターとして『ホンマでっか!?TV』フジテレビ系)など多数の番組で活躍