「主役を務める香川さんは汗だくの熱演でした。いとこである猿之助さんの一家心中事件もあり、周囲から温情の目で見られていたのが印象的でした」(観客の一人)
東京・歌舞伎座の「六月大歌舞伎」昼の部『傾城反魂香』で、主演を務める市川中車こと香川照之(57)。歌舞伎関係者は言う。
「香川さん演じる吃音の絵師と妻の物語で、昨夏に銀座のクラブホステスへの性加害が報じられた香川さんを復活させるべく、猿之助さんが妻役として全力で支える“晴れ舞台”となるはずでした」
実際に観劇した演劇評論家の上村以和於さんはこう語る。
「これが初めてと言っていい本格的な古典の大役で、市川中車としてワンステップは上がった気はします。歌舞伎の世界に入ってやっと10年、少し明るい光が差したってところでしょうかね。ただ、まだまだこれからです」
前出の歌舞伎関係者は言う。
「市川猿之助さん(47)の事件直後、代役を務めた香川さんは楽屋で“今後は私が澤瀉屋を背負っていかなければ”と決意表明したといいます」
だが、澤瀉屋トップだった猿之助の後任は香川ではないという。
「8月歌舞伎座『新・水滸伝』の主役を演じる予定だった猿之助さんの代役は事件直後の明治座でも代役の中村隼人さん(29)でした。隼人さんは梨園きっての美男子で人気も集客力も高い。『大富豪同心』(NHK)の主演も務め、23日から第3弾も放送されます。
松竹としてはチケットの売り上げが全歌舞伎役者のなかでベスト3に入っていた猿之助さん率いる澤瀉屋の座組は残しておきたいのが本音。そのため香川さんではなく、隼人さんを実質的な座頭に据え頑張ってもらおうという思惑なのです」(別の歌舞伎関係者)
まさかの下克上――。前出の上村さんも中村を高く評価する。
「キャリア、実力ともに、もう若手花形というよりも中堅として、意欲も高いし、非常に才能のある俳優だと思います」
前出の歌舞伎関係者は続ける。
「隼人さんは明治座代役の千穐楽の終幕後、両膝をついて『何よりつらいのはご親族、何十年と澤瀉屋を支えてきた一門と、ファンの皆さま。われわれは猿之助兄さんに育てられ、支えられて今があります』と挨拶しました。それが澤瀉屋の人々の心を打ったというのです。
正直、澤瀉屋の役者たちも、テレビや映画の仕事がなくなり歌舞伎役者としてまだキャリアの浅い香川さんが座頭では、将来に不安が残ります。團子さんが五代目猿之助を名乗るまでは隼人さんに澤瀉屋を引っ張ってほしいのです」
澤瀉屋の顔としては失格の烙印を押された香川。認めてもらうためにも意気消沈する暇はない――。