■ダウンタウンは風神と雷神
ボクは浜田さんだけではなく、松本(人志)さんも同じく恐ろしく心から尊敬している。『HEY! HEY! HEY!』に出ている時は浜田さんと松本さんの二人に挟まれて話をすると、鬼が両脇にいると常に感じていた。風神と雷神とでも言えばいいのか。妥当な言葉が見つからない。自分が想像すらしていない、気配を感じていないところからいきなり飛んでくる松本ビームは、暗闇から突如現れるステルスミサイルだ。攻撃されるとひとたまりもない。彼らの作る独特の空気に呑まれたことに毎回落ち込む。『エグい…』とため息が止まらない。あの二人は芸人だからそんなのは当たり前だと思う読者もいるかもしれないが、決してそうではない。あの二人以外にコンビで同じ異質さを感じる人はいない。三国志にたとえると芸能界の[張飛と関羽]だ。ダウンタウンの元マネージャーだった大﨑さん(吉本興業元会長)と会食した時に聞いたことだが、まだ彼らを売り出し始めた時浜田さんが言っていた言葉がある。「今のオレでは松本の才能を活かし切れていない」「オレがもっと頑張らないと松本をダメにする」とずっと言っていたそうだ。大﨑さん曰く、浜田さんは努力の秀才。松本さんは生まれながらにして天才と言っていた。もちろん松本さんも努力はしているのだろうが大﨑さんはそう言っていた。大﨑さんも彼らと出会った頃からこの二人は日本の頂点に立つと思っていた、と。
彼らは笑いや番組作りに対してかなりシビアだ。テレビが嫌いなボクでも、ライブや映画、ドラマの番宣でバラエティー番組に出なければならない時がある。2時間放送の番組に5時間の収録はざらにあるが、ダウンタウンの番組に出ると実質の放送時間が45分だとすれば、カメラを50分しか回さないこともよくあることだ。生での表現に対するこだわりとプライドがまったく違う。収録をできるだけ長回しして、面白い部分だけをピックアップし切り取り繋げて作る感覚ではなく、[いかにその密度と鮮度で面白くするか]ということにこだわっている人たちだからこそ、現場のテンションも緊張感も格段に違うものとなる。出演者全員が異常に緊張しているのがヒシヒシと伝わってくる。ボクはミュージシャンという立場だからこそ、緊張こそすれど面白くある必要はないが、一緒に出演する芸人は違う。番組前に彼らと話をすることもあるが、「吐きそう…」と言っている芸人も少なくない。若手芸人ではなく、そこそこ番組慣れをしている中堅どころの有名な芸人でさえそう感じざるを得ないものがあの二人にはある。リズム感、テンポ感がよく、ダラダラする隙もなければ、中弛みもしない。それはポリシーと強い意識がなければできないこと。そして、ポリシーがあったとしても、実際にそう簡単にできるものでもない。
浜田さんは仕事に対し凄くシビアだが愛情は深く、プロ意識も異常に高い。目の前でスタッフが「こら~!」と怒鳴られるのを何度も目にしてきた。もちろん、ボクの現場ではボク自身も同じように怖いと思われているのだろうが、恐怖のレベルが違う。彼の醸し出す緊張感が辺りを支配しているのがよくわかる。
番組のプロデューサーが言っていた興味深い言葉がある。浜田さんの『声』の魅力。「浜田さんはタイトルコールをして、何を言っても声が遠いところまで届く。あんな声を持っている人は他にいないよ」と。そう言われて『確かに!』と思った。タイトルコールするだけで面白いってどういうことだ? 意味がわからない。
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前作『自白』刊行から20年、今回刊行された『自白II』では波瀾万丈のアーティスト人生を歩んできた彼が50歳となった今、20年の沈黙を破って後半生を振り返っている。遺書を20通書いた活動休止期間の苦闘、主演映画『翔んで埼玉』の舞台裏、超人気バラエティ番組『芸能人格付けチェック!』の葛藤、先輩アーティストたちとの華麗なる交流録、実業家として億単位の負債、最後の恋など仕事と私生活を全13章で自ら綴っている。
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