2月下旬、都内の芸能事務所前で数人のスタッフに見送られ、車に乗り込む女性が。松田聖子(61)だ。2時間ほどの打ち合わせを終え、事務所から出てきた聖子は穏やかな表情を浮かべていた。以前に比べて顔色もよくなっているように見えた。
「通常、聖子さんは自宅にスタッフを呼んで仕事の話をすることが多いため、事務所に立ち寄るのは珍しいですね。何か重要な打ち合わせが行われていたのかもしれません」(音楽関係者)
聖子は2月14日、2年4カ月ぶりとなるニューアルバム『SEIKO JAZZ 3』をリリース。さらに、3月9日放送の音楽番組『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)に出演することも発表した。これは’21年12月に愛娘・沙也加さん(享年35)が亡くなって以来、2年3カ月ぶりのテレビ出演となる。
「聖子さんは訃報を受け、出場予定だった『NHK紅白歌合戦』を辞退。4カ月後に芸能活動を再開したものの、2年以上もテレビ番組への出演はありませんでした。各局の音楽番組がオファーを出しても、すべて断られていたとか。今回決断したのは、『MUSIC FAIR』が音楽に特化していて、トークの場面が少ないからというのが大きな要因だと聞いています。過去何度か出演していてなじみのある番組ですし、沙也加さんのことを聞かれる不安もないので、聖子さん本人が決めたそうです」(前出・音楽関係者)
聖子はテレビ出演がなかった時期も歌手活動に励んできた。
「一時は精神的にかなり落ち込んで、激やせ報道が出るなど、体調が心配されました。しかし、音楽が悲しみを紛らわせてくれたそうで、コンサートやディナーショーを精力的に開催するようになったのです。聖子さんは、自分が復帰できたのはつらいときに励まし、一緒に悲しんでくれたファンの支えがあったからだと考えています。そのため、ファンの前で歌い、輝いている自分の姿を見せることをテレビの仕事以上に優先してきました」(前出・音楽関係者)
ファンの支えで悲しみを乗り越え、一歩前へ進み始めた聖子は今、さらに輝きを増すため、世界進出を見据えているという。
「近年はジャズを中心に、海外を意識した楽曲に取り組んでいるようです。聖子さんは過去何度かアメリカ進出に挑戦しています。’90年には全米デビューを果たしましたが、結果は振るいませんでした。しかし、今の彼女には追い風が吹いています。海外で日本の“シティ・ポップ”が再評価され、聖子さんの知名度が上がっているのです」(前出・音楽関係者)
現在のシティ・ポップブームを音楽評論家の富澤一誠氏はこう分析する。
「洋楽の影響を受けながらも、洋楽以上に都会的に洗練されたジャパニーズポップスがシティ・ポップです。松原みきの『真夜中のドア』や、竹内まりやの『SEPTEMBER』など、’79年ごろに流行した楽曲がシティ・ポップの源流となっています。サブスクで国境を超えて音楽が聴けるようになり、今になって世界的にヒットしました。シティ・ポップはサウンドよりも言葉に重きを置いています。その響きの美しさを若いインフルエンサーたちが新鮮だと感じ、次々と“いいね”を押すことで、どんどん拡散していったのです」
ブームの中心は’80年代の楽曲。聖子の往年の名曲も人気のようだ。
「当時、制作陣の間で『洋楽に負けないジャパニーズポップスを作ろう』という機運が高まっていました。そのため、聖子さんに曲を提供していたのは大瀧詠一さん、松任谷由実さんなど、シティ・ポップの代表的なアーティストばかり。それらの楽曲をきっかけに、海外で聖子さんの名前も知られるようになっています」(前出・富澤氏)
しかし、いくら知名度が上がっても、海外で音楽的な成功を収めるのは容易ではないという。
「以前の経験から聖子さん自身がそれをいちばん痛感しているのでしょう。だから過去のヒット曲に頼らず、ジャズなど新しい音楽に挑戦しているのだと思います。実はジャズアルバムの第1作は、アメリカの大手配信会社のチャートで第2位という快挙を成し遂げました。そうした成果を足掛かりに、アメリカに限らず、グローバルな活躍を目指しているのでしょう。アジアでも日本のアイドルは人気がありますからね」(前出・富澤氏)
冒頭の打ち合わせは、世界進出に向けての作戦会議だったに違いない。最後に、まもなく62歳となる聖子が海外で成功するために必要なことを富澤氏に聞いた。
「聖子さんといえば昔は透明感あふれる声が特徴でした。今はそこに生き方や人生観が加わって表情豊かになっており、世界でも十分通用する歌声だと思います。聖子さんに一つ足りないとすれば、自分の人生経験を映し出した歌です。たとえば、美空ひばりさんの『川の流れのように』。あの歌は美空さんの人生そのものです。言葉に重きを置く日本のシティ・ポップがトレンドの今、聖子さんの酸いも甘いも経験した人生を表現した歌を出せれば、より高く評価されるはずです」
テレビ復帰後、人生を映し出した聖子の歌声が世界の人々の心に響く日は遠くない。