2025年1月13日、『欽ちゃん&香取慎吾の第100回全日本仮装大賞』(日本テレビ系)が放送される。98回大会(2021年)で勇退宣言をした萩本欽一(83)だったが、日本テレビと香取慎吾(47)から熱心な慰留を受け、今年2月に99回大会のオンエアに至った。あれから約1年、記念すべき100回大会はどんな番組になるのだろうか。今年行われた萩本欽一の舞台を全て観覧したライターの岡野誠氏が見所を展望する。※記録などは当時のもの
「もうちょっとアドリブ飛ばせるだろ」
3年ぶりに開催された『仮装大賞』99回大会の収録中、萩本欽一は自らを叱咤していたと本誌の取材に明かしていた。テレビから遠ざかっていたため、思うようにいかない場面が何度もあったという。
アドリブ――。萩本欽一のコメディアン人生は、この言葉に集約されると言っていい。浅草での修業時代に台本なしのコントで鍛えられた男は、坂上二郎とのコント55号でも同じスタイルを貫く。テーマを決めただけで舞台に上がり、フリに必死に応える二郎さん、突っ込みを入れる欽ちゃんは観客を沸かせ、時代の寵児となった。萩本はピンでの活動を始めると、『オールスター家族対抗歌合戦』(フジテレビ系)などの一般人参加番組で司会を務め、何を言い出すかわからない素人相手にその場で機転を効かせ、高視聴率番組に成長させた。
思えば、1979年の大晦日に始まった『全日本仮装大賞』も萩本欽一のアドリブ力あってこその番組だった。現在は録画放送だが、かつては生放送で40組、200人を超える出場者の作品を時間内に違和感なく収め、笑いと感動をバランス良く盛り込んだ。
リハーサルなどで面白そうな素人に目を付けることはできるが、本番で思い通りに話してくれるとは限らない。テレビで目立ちたいばかりに暴走する学生もいる。多数の出場者の誰にマイクを向けるかで、番組の流れは大きく変わる。
生放送中、萩本は刻々と過ぎ行く時間を考えつつ、瞬時に判断を下していた。1986年1月2日の17回大会では、42番の「はかり」が番組史上最低の1点を記録。唯一、得点を入れた審査員の岩崎宏美(66)が「私も、しょうもないなと思ったんですけど」と言うと、会場は爆笑に包まれた。欽ちゃんは2人の男性出場者に対し、得点ボードの前での記念撮影を提案。その後、1人が「頑張ったぞ――!」と叫ぶと、「頑張ってないから1点なんだよ」と突っ込んだ。
生放送ではないが、1991年10月5日の34回大会では17番の「家&ヘイ」をアシストした。家と塀に仮装した2人が『サザエさん』の音楽に乗って歩き出し、「イエイ」「ヘイ」というだけの作品だった。演技が終わった後、会場の戸惑いの空気を感じた萩本は「アンコール! アンコール!」と叫び、同じ動きを繰り返させた。すると、意味を理解した観客の笑いが増大。結局、彼らは同じ演技を3度して爆笑をさらい、ユーモア賞に輝いた。
このような萩本のアドリブ力が『仮装大賞』を昭和、平成、令和と3元号に渡る長寿番組へと押し上げた。その欽ちゃんが《とてつもないアドリブの力を持っている》(2018年1月20日付/スポーツ報知)と評価するのが、2002年から共に司会を務める香取慎吾である。
1994年10月開始の『よ!大将みっけ』(フジテレビ系)で初共演した際、萩本は香取の潜在能力に気付き、近年も《苦しませると、とんでもない領域まで飛んでいける。ホント困っちゃうよねえ》(前掲紙)と欽ちゃん流の言葉で最大級の賛辞を送っている。つまり、無茶振りをすればするほど、香取の能力は発揮されると萩本は見ている。
99回大会の前には、ディレクターから香取のこんな言葉を伝え聞いたという。
《僕が最初に『仮装』に出演した時のような欽ちゃんのツッコミに、また会いたいな。今回は特別に、いつもより乱暴にツッコミをして欲しい》(2023年10月12日号/週刊文春)
これに対し、萩本は《慎吾ちゃん、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。でもね、もうぼくは舞台で飛んだり跳ねたりできないから、慎吾ちゃんにこそ、いつもの倍くらい頑張って欲しいなァ》(前掲誌)と綴っていた。そして、99回大会で香取が奮迅の働きを見せると、萩本は「慎吾、最高だったな」と司会ぶりを讃えた。
一方、舞台に立ったことで、萩本のコメディアンとしての血も騒いだ。それが「もうちょっとアドリブ飛ばせるだろ」という反省に繋がったのだ。自身の出来に満足のいかない男はアドリブ力を取り戻すため、実は今年1月から「新宿バティオス」でほぼ毎月ライブを開催。事前打ち合わせなしで勝俣州和(59)、東貴博(54)らと舞台に上がり、83歳の今も貪欲に笑いを求めている。「リハビリ」と謙遜しながらも、この舞台を通して、普段は大人しく撮影しているだけのカメラマンが演者に突っ込みを入れる新しい笑いのスタイルも生み出した。
『仮装大賞』の再開をきっかけに、萩本欽一は活発さを完全に取り戻している。「欽ちゃんが出ないなら僕も出ません」と背中を押した香取慎吾も今年、精力的な日々を過ごした。俳優として舞台『テラヤマキャバレー』、ドラマ『欽ちゃんのスミちゃん』などに出演し、歌手としてニューアルバム『Circus Funk』を発売。中森明菜と『TATTOO』をデュエットして話題を呼んだ新作は、オリコン週間デジタルアルバムランキングで1位を獲得した。
この1年でパワーアップした2人が『欽ちゃん&香取慎吾の第100回全日本仮装大賞』(日本テレビ系/2025年1月13日19時から3時間スペシャル)で1年ぶりの共演を果たす。萩本は自身の納得できるようなアドリブを飛ばせるか。そして、香取慎吾は欽ちゃんの無茶振りに応えられるか。『仮装大賞』では、2人のコンビネーションも胸に刻みたい。
(文:岡野誠)
【PROFILE】
岡野誠
ライター、松木安太郎研究家。執筆記事〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞に。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸や都志見隆などへの取材、膨大な資料分析を通じ、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在までを熱のこもった筆致で描き出した。今年開催の萩本欽一の舞台を全て観覧