「腰が抜けるほどつまんない」
9月21日深夜放送の『伊集院光の深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)で、こう言い放ったのはタレントの伊集院光(58)。
酷評の対象となったのが、ダウ90000・蓮見翔(29)が脚本を手がけたテレビアニメ『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)だ。蓮見が脚本を担当したのは9月19日放送回の「ある午後の野原夫婦だゾ」で、主人公・野原しんのすけがほぼ登場しないワンシチュエーションで夫婦2人がたわいもない会話をするという、通常回とは一風変わった蓮見ならではの内容だった。
伊集院は番組内で「勇気がいるんだよ、あっちが正しいことになってるから。世の中はダウ90000のセンスを理解できない、まして58のやつを許してくれないから。こっちが老害。超勇気いるんだよ」などと、自らが批判されることも覚悟して冒頭のように作品を批判。
また、伊集院は、蓮見がテレビなどで「自分たちはおっさんと違って若い感覚を持っている人の役をやらされてきた」などと語っていることにも言及。蓮見が「みんなに言わされてたことで自分も思ってないこと」だというのなら、「その看板の商売を1回やめてほしい」と主張。「『彼とセンスが違うから、老害なんだ』っていうレッテルを、もちろん被害妄想の誇大妄想ですよ」としつつ、「こっちはビビり続けてきてっから」と吐露した。
この伊集院による名指しの批判はネット上でたちまち話題となり、蓮見も24日にパーソナリティーを務めるラジオ『REQ JAM』(JFN)で応答。伊集院について「偏屈さみたいなものがある人で、そこに我々はほれぼれしている」と敬意を示す一方、「下から潜り込むファイトスタイルをまだやっているんだこの人は」と疑問を呈した。
「あの年代のレジェンドが切り抜きをちょっと見た程度の情報量で、後輩ダサいとか言って賛同集め出したらもう終わりでしょ」と苦言を呈し、「一番の原因はね、伊集院さんが自分のことを老害って言ったことだと思う」と分析。「その『ダウ90000を理解できないとダメ』みたいなのって、それ、いつ、どこで、誰に言われたんですか?」「『理解できないのが悪い』みたいな圧なんて俺、絶対に自分でかけたことないし」と反論した。
“お笑い界の重鎮”と“若手のホープ”のバトルをきっかけに、SNS上では世代を巡る議論を呼び起こすなど論争状態に。この一連の流れについて、お笑い評論家のラリー遠田氏は、まず両者の主張をこう分析する。
「伊集院さんは、単純に蓮見さんが脚本を担当した回を見て、個人的にはあまりピンとこなかったということを言いたかったのでしょう。それに加えて、蓮見さんが『若手だからといって年上に噛みつくような役回りばかりやらされるのは嫌だ』という趣旨のことを言っていると感じていて、そこに引っかかっていた。だから、『クレヨンしんちゃん』の話をきっかけにして、そのことも口をついて出たのだと思います」
一方、蓮見については、脚本そのものへの批判は「好みの問題」として受け止めたうえで、自分のスタンスについては「それは違う」と反論したと分析する。
そのうえで、両者の主張がぶつかった大きなポイントの一つが、「ダウ90000を理解できないといけない」という空気の有無だという。
「蓮見さん本人にはそんな空気を出しているつもりはないし、実際にダウ90000を面白くないと言っている人も大勢いる。でも、そもそも“空気”というのは、本人が意識して作るものとは限りません。蓮見さん自身の知らないところで『ダウ90000のことを面白くないと言ったらセンスがないと思われる』という雰囲気が生まれている可能性はある。だから、伊集院さんがそう感じたこと自体は、全く根拠がないとは言い切れません」
一方で、伊集院が危惧した通り、ベテランが若手を批判することには特有の難しさがあると指摘する。
「目上の人が、反論しづらい立場の若手に否定的なことを言うのは、パワハラにあたるので避けた方が良いという感覚は、お笑い界に限らず一般的になっています。むしろ今の時代は『若い人に何か言うのが怖い』『間違ったことをしている人にすら注意しづらい』という風潮もあります。
また、ベテランが若手を批判すると、『優秀な若手に脅威を感じている』『嫉妬しているだけだ』などと思われやすいんです。実際にはそんなつもりがなくても、そう受け取られるリスクがあるため、上の世代が批判する側に回るのは非常にやりにくい状況があります」
ラリー氏はそのリスクを承知の上で発言した伊集院の姿勢を評価する。
「蓮見さんの反論は誠実で筋が通っていると思いますが、伊集院さんは自分がみっともないと思われたり、批判されたりするリスクがあることを承知の上であの発言をしています。みんなが思っていても言えないことを自分が口にするのだという伊集院さんの覚悟を感じました。蓮見さんがこういうときに黙ってやり過ごすようなキャラクターではないことはわかっていたので、正直、伊集院さんのあの発言があった時点で、蓮見さんがどんな返答をするのか楽しみですらありました」
リスクを取るベテランの行動には、芸人ならではの「かっこよさ」もあるという。
「ビートたけしさん(79)や笑福亭鶴瓶さん(74)がいまだに体を張って笑いを取ろうとするように、ベテランになってもあえて“みっともないこと”をやるのは、芸人としてはかっこいいことでもあります。発言の是非はともかく、伊集院さんが守りに入らず、自分のラジオで本音をぶつけるスタイルを貫いていること自体は、評価すべきだと思います」
そして、この一件を考えるうえでは、現在のお笑い界で進む世代交代も無視できない。現在のお笑い界では、ダウ90000の蓮見のほか、お笑いコンビ「霜降り明星」の粗品(33)やお笑いコンビ「令和ロマン」の髙比良くるま(32)など、若い世代の台頭が著しい。
ラリー氏も「たしかにここ数年で世代交代が急速に進んでいる印象はあります」とした上で、その影響として“ダウンタウンの松本人志(63)の不在”をあげる。
「やはり松本さんがテレビからいなくなった影響は大きいと思います。松本さんは、吉本興業という大手事務所の中心にいて、『M-1』『キングオブコント』『すべらない話』『IPPONグランプリ』などの番組で、お笑い界の権威とされるポジションに就いていました。そのポジションが空いたことで、若手が入り込む余地が生まれたんです。実際、今年5月には粗品さんが企画・構成にも深く関わり、MC・審査員も1人でこなす『ツッコミ芸人No.1決定戦 ツッコミスター』(フジテレビ系)というお笑い特番が放送されました。松本さんがいなくなったことで、まさに粗品さんのような自らが笑いの権威になる動きがやりやすくなっている部分があると思います。蓮見さんが活躍しているのも、広い意味ではその流れの中に位置づけられます」
世代交代によって彼らのような若い世代が台頭し、伊集院のように批判するベテランがいるいっぽう、若手から強いリスペクトを集め、表立って若手を批判する素振りを見せないお笑いコンビ「爆笑問題」の太田光(61)やタレントの有吉弘行(52)といった存在も。そこにはどのような違いがあるのか。
「太田さんの場合、今も現役の漫才師であることが大きいと思います。テレビでの仕事が増えるとネタをやらなくなる芸人も多いなか、太田さんはいまだに相方と新ネタを作り、ライブで披露し続けています。年齢を重ねても現役で舞台に立ち続けている姿勢そのものが尊敬につながっています。
また、明石家さんまさん(71)や松本さんのように、バラエティ番組であからさまに権威として振る舞うと、若手は緊張して萎縮してしまうこともあります。一方、太田さんは自分から下りていって、あえてくだらないことを言ったり、若手と張り合ったりして、自分が上に立たない雰囲気を作っています。若手と同じ目線に立つことで、若手が緊張せずに接することのできる空気を作っています。有吉さんも、毒舌キャラとしてあえて厳しい言葉を使うことはあるものの、それは芸風の違いであって、若手との関係性という点では太田さんと共通する部分もあります」
今回の伊集院と蓮見の騒動について、ラリー氏は「どちらが正しいか」ではなく「エンタメ」として捉えている。
「個人的には、この件を『こっちが正しい』『こっちが間違っている』というふうには捉えていません。SNSなどでは『2人とも好きだから、言い争っているのが心苦しい』という声もありましたが、私はむしろ逆です。2人とも好きだからこそ、こういう騒動も面白いんですよね。
一見すると激しく対立しているように見えても、芸人同士がラジオという表の場でやり合っている以上、それは一種のエンタメなのです。大前提としてお互いへの信頼やリスペクトがあるからこそ、こういうやり取りが成立しています。一般の人を相手にすれば本当に傷つけてしまうようなことでも、芸人同士なら、一定のラインで面白いところに収めてくれるという相互理解があります。本当のもめごとなら、表でやる必要はないでしょう」
