Vol. 60歳、ドキュメンタリー映画を撮る

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――よろしくお願いします。ドキュメンタリーを見せていただいて、いま物静かなあがたさんがいらっしゃるというのも、ちょっと不思議な感じなんですけれども。

あがた どっちが本物かみたいな(笑)

そうですね。いま、六十歳を迎えられて、ちょうどPANTAさんや泉谷しげるさんだったり、同年代のミュージーシャンらがみんな60歳を迎えて、すごく盛んで頑張ってらっしゃいます。六十歳を迎えて、どう思われてらっしゃいますか。

あがた 六十歳ね。最近さ、ものの本を見るとさ、もう高齢化社会だから、いまさら60でどう?っていう。俺も、そう言っちゃ身も蓋もないんだけども、いかんせんそんな稼ぎが多い方じゃないから、ともかく六十になったということをとっかかりにして、なんかいろいろやってみようじゃないかということで、去年70カ所近くワゴン車で回り、かつ、それをドキュメンタリーにもしてしまったんです。でも、60歳というのも昔で言えば還暦だし、やっぱり年相応の感慨は、なくはないです。うまく言えないんですけれども、なんて言ったらいいんだろうな、山登りだとしたら六合目までは登ってみたぞみたいな、6、7合目くらいまでは登ってみたぞという、まんざら悪くはないなという感じですかね、素朴に言えばね。

ちょうど僕が高校生の頃に、あがたさんがヴァージンVSをやられている頃で、ちょうどそれを見ていた僕らの世代から考えると、当時は六十歳になった人が、実際にバンドというか音楽活動をしてる人たちがいなかったので…まだ、ローリングストーンズとかもそういう年齢には達していなかったので、特別な感慨を、僕はちょうど45歳なので、まだ僕らにも目標があるなというか、この先、60歳になっても同じように生きていけるんだと実感して。そういう意味でも、今回ドキュメンタリーを拝見させていただいて、よりそういうものを強く感じたんです。

あがた そうですか。

やっぱりずっと歌われてきて、ドキュメンタリーというのは、心を晒すものだというか、いろんなもものを晒してしまうじゃないですか。見ていて、いくつか衝撃的な映像があって、あがたさんとしては、どういうふうに考えているか。

あがた そうだね。一言でうまく言えないんですけどね、例えばね、僕が’72年、『赤色エレジー』という歌でデビューしました。その時に、ものの弾みで、当時11PMという番組があって、一番最初にテレビに呼ばれていったのが、その11PM。最近こういう若者たちがいるみたいな特集で、下駄履きで出ていって赤色エレジーを歌ったのがとっかかりだったんですがね。その時俺は、いまだってそうだろうけど、テレビに出るとかといったら、それなりの身なりをしていくよね。でも若かったから、本当にジーンズにTシャツで、当時はスニーカーと言わずにズックと言ってたんです。かかとの潰れたのしかなかったから、下駄ならちびてるのでもいいんじゃないかと思って下駄履いて出ていって。なんかそれが、そのカジュアルさが、既存の歌謡曲とは違う落差が、またあの『赤色エレジー』の色合いを際だたせたというおもしろさがあって。テレビというメディアであったということもあるんだけれど。

で、テレビに出る出ないはさておき、僕らのあの時代の、僕らのああいう存在が、既存の歌謡曲とかエンターテイメントの世界をちょっと塗り替えたというか、非常にカジュアルでまんまなもの、作られたもの、歌だって作られたものだから。自分の言葉や自分の感性や、自分の感じ方、考え方で問いかけたというところが新しかったかなと。時代背景ももちろんありますけどね。そうすると、俺はいま六十で、あと何十年やるか知りませんけれども、でも俺は俺で六十歳まで来て、まだこれから自分はいろいろやっていくという中で、例えば自分が、本音というのとはまたちょっと違う、自分の感性でやっぱり表現をするという、そのもっと生きてること全体がもうちょっとカジュアルでいいんじゃないかなという、僕の中にある思いが、ここにもビデオカメラがありますけど、やっぱりこういうものを自分で映像を撮ったりして作品を作ったりもしてると。

一方では、それがまた違う集約のされ方として、こういうドキュメンタリー映画にもなったりと。そういう中で、ありのままというのも変だけども、じゃあ、何がカジュアルかと。一言で言えないんですけれども、もっと僕らの関係性って、まだカジュアルの表出の仕方があるんじゃないかなという。だから、うまく言えないんですけどね、映画の中では喋ってないんだけど、自分の父親がね、「人殺しみたいなことはしちゃいけないけれど、それ以外だったら、職業に基線はないし、おまえがやりたい仕事をやればいいんじゃないの」と、たぶん俺が、音楽やりたいって言い始めたから言ってくれたのかな。あるいはまた違うおりに言ったのか、父親がそういう言い方をしてくれたんですよ。父親はいろんな言葉を吐いてるけど、すごい言葉だなとか思って。

いまは職業に貴賎があるとか、今日日そんなことは誰も言わないけど、当時で言えばやっぱり、ある種、階級的・差別的な意識はもうちょっとあったから、貧富もいろいろだったろうし……、ちょっといま話のつなげ方がうまくないんですけども、特にいまの若い人に向けてということではないんですけれども、コミュニケーションって一見カジュアルなようで、なにかうまく統制されてるというか抑制されてるというか、いまの若い人たちは本音で喋らないよね、むしろ逆に僕からすると。それは、いい意味でとらえれば礼儀正しいし、非常に気配り細やか、感性が細やかと言えば細やか。悪く言えばことなかれ主義。それで、だからみんな誰もが奔放に生きればいいということじゃないんだけども、例えば、たぶん自分で一人で家に帰った時にね、誰か好きだった彼女にふられてワーワー家で泣いてる時だって、きっとあると思うんですよね。それとか、うまく言えないけど、もっとどうでもいいようなくだらないこととか、もっと下劣なことで自分の中で右往左往してたりとか。

俺が思うのはやっぱり、そのへんというのは、もっとフランクでもいいんじゃないかなというふうに。逆に言えばどういうことかというと、本当に人を好きになって死ぬほど悲しい思いをしたことがみんなあるの?って、ちょっと聞きたいわけよ。なきゃ駄目ということじゃないんだけれども。生きてることの豊かさって何かなって、俺たちの時代っていう言い方は変だけど、俺はどこかで二十世紀という時代に生まれて、二十世紀という音楽を吸収し、いまここまでやってきて、いちおう、いま仮に二十一世紀と区分けするんだったら、どこかで二十一世紀の化石というか。でも二十一世紀って、これだけある意味の豊かさなり、やっぱり一つは、大きな第二次大戦というものを日本人が経て、戦後から僕らは生まれてきたから、社会というか時代というか現象がすごくダイナミックだったから、そういう中で人々が傷ついたり死んだり助け合ったり、その助け合ったりとか人と人がより求め合った時代の何かというものに対して、僕はすごい未だに憧れやいろいろなものがあるから。

一番最初に周りのスタッフにギャーギャーとか言ってるのは、なんでもっとみんなで力を合わせてやろうとしないの?ということを言いたくて、俺は喋ってるわけだけれども。だから、そういう人間が人間をもっとリアルに求め合ってた時代への慈しみというか、そういうものが僕の中にはあるのかな。

インタビュー/DJtaba 撮影/高田崇平

あがた森魚 プロフィール

1948年北海道・留萌市生まれ。1972年「赤色エレジー」でデビュー。20世紀の大衆文化を彷彿とさせる幻想的で架空感に満ちた作品世界を音楽、映画を中心に展開。近作アルバムには『佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど』(01)、『タルホロジー』(07)など。映画監督作品に『僕は天使ぢゃないよ』(74)『オートバイ少女』(94)『港のロキシー』(99)の3本がある。俳優出演近作に『人のセックスを笑うな』(08/井口奈己監督)、『ノーボーイズ、ノークライ』(09/キム・ヨンナム監督)など。08年、還暦を迎え、全国60カ所あまりのツアー「惑星漂流60周」を展開、092月にはこのツアーのファイナルイベント「あがた森魚とZipang Boyz號の一夜」を九段会館にて敢行。ひき続き全国各地でライブを展開中。

 

 

 

『あがた森魚ややデラックス』公開記念イベント決定!

1972年、「赤色エレジー」の爆発的ヒットで華々しいデビューを遂げたあがた森魚は、これまでに30枚を超えるアルバムを発表。さらに、シンガー・ソングライターのみならず、詩人、俳優、エッセイスト、映画監督などなど、友人の矢野顕子をして「天然記念物」と言わしめるほど、ジャンルも常識も軽々と飛び越えて、あがた森魚的生き方を貫いてきました。還暦を迎えたあがた森魚は、日本最北の地から、南は沖縄・石垣島まで全国67箇所を、たった1台のキャンピングカーでめぐる、ライブツアーを敢行!畳の上、テーブルの上で、熱く語り、はしゃぎ踊り、酔いつぶれ、怒鳴り、ちょっとだけ泣く。心に染み入るメロディと奔放すぎる生きザマ。東京・九段会館での感動的なフィナーレへと続く本作で、音楽からもはみ出してゆく剥き出しのあがた森魚の生き方が見えてくるドキュメンタリーです。
公開は10月10日よりシアターN渋谷にてモーニン&レイトショー上映となります。
 
この映画の公開を記念し、多ジャンルの様々なゲストを迎えてイベントを開催します。
つきましては、イベントニュースなどで本情報を是非ご紹介下さい!
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<阿佐ヶ谷ロフト>
10/5(月) 先行プレミアムトーク&ライブ(ロフトA)19:30~21:30
第1部トーク 林海象×竹藤佳世×森達也
第2部ライブ あがた森魚×武川雅寛(バイオリン)

<シアターN渋谷>
10/10(土) 初日舞台挨拶 11:00の回上映前 あがた森魚×竹藤佳世(監督)
21:10の回上映前 あがた森魚×竹藤佳世×森達也(監修)

10/11(日) 21:10の回上映後 あがた森魚×タカハシヒョウリ(オワリカラ)(トーク)

10/13(火) 11:00の回上映後 ポカスカジャン(トーク)
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10/18(日) 21:10の回上映前 あがた森魚(トーク&ライブ)

10/20(火) 11:00の回上映後 曽我部恵一×あがた森魚(トーク)

10/23(金) 21:10の回上映前 前野健太(トーク&ライブ)

10/31(土) 11:00の回上映後 松江哲明×竹藤佳世(トーク)
 
詳細は公式サイトにて http://www.yayadeluxe.com/
 
 
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『あがた森魚ややデラックス』
10月10日 シアターN渋谷にてモーニング&レイトショー!

シアターN渋谷  http://www.theater-n.com/movie_agata.html
 

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