辻 仁成 監督・脚本の話題の映画『ACACIA』について語る

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                               撮影のひとコマ、主演の猪木さんと少年。Photo by Hitonari Tsuji

――誰もが驚いた俳優・アントニオ猪木の起用ですが。
誰も思いつかないすごいキャラクターはいないかな、という時、猪木さんが浮かんだんです。みなさん、猪木さんと言えば「ダーッ!」のイメージしか浮かばないのかもしれませんが、若いときは、日本を代表するプロレスラーとして“シビア”なせ界で頑張ってこられた方です。最近はみんなに愛されているキャラクターの方がつよいんですけど、本当はそれだけじゃないんじゃないかなと思うんですよ。それで猪木さんにお会いする機会があって、そこで直にお願いしました。「冷静に判断して頂いた上でお願いします」と。

――猪木さんというと神話化されたレスラーなわけで、なかなか頼みにくいと思うんですが……。
今までの映画監督の方なら、選ばれなかったと思うんですよ。実際、リハーサルの時も台詞が入っていませんから棒読みだし……。だけどもカメラ越しに覗くと存在感が凄くて。とにかくしわがいいんですよ。だから台詞は半分にカットして、存在でアピールする方法や、力を抜いて演技してもらう方法を僕なりに一所懸命に伝えたんです。飲み込みがもの凄く早くて…でも最初のころはいろいろありました 。あれだけのことをやってこられた方ですから……ここが一番大事なんですけど一つのことをあそこまで極めた方なので一つ一つの重みが違うんですね。

――プロレスというのは真剣な肉体のぶつかり合いと、興行という二つの世界を行き来するものじゃないですか。そういう世界の人を主人公に据えたというのはなにか意図があったんですか?
猪木さんはプロレスの世界ではスパースターだったわけですが、今、様々な身体の不調があるにもかかわらず現役時代と変わらずに輝いていらっしゃる。普通の役者さんであれば、年老いたことを演じてしまうと思うんですが、猪木さんは、まさに身体に刻まれた歴史に老いが現れているんです。そこは、全く違うと思うんですね。

――BAND活動、今回の映画監督と同世代のなかでは辻さんの創作意欲は飛び抜けたものがあると思うんですが、今回、映画監督をすることに当たってはなにか思いがあったんですか?
一つの世界で固まってしまって、だんだん偉くなってしまうようなのが、僕は一番ダメなんですね。それが根底にあって。それでひとつひとつ新しいことを極めて行こうと。音楽を新たに始めた1年目も、「また音楽をやるのか」みたいな批判もありましたし。でも、貫けば批判も賞賛に変わるというか、信じて付き合ってくれる仲間もいますから。

――今回の作品から“今の時代”へ発したいメッセージは何ですか?
この映画では出演者が背負っているもの、主役である猪木さんがお子さんを亡くされていて、監督と脚本家である僕自身も離婚をして子供とは一緒に暮らせない状況がある。そんなそれぞれが背負っているものと物語がクロスする中で新しい物語が生まれてくる。小説は1人で書いていく作業ですが、映画は70人近いスタッフみんなで作り上げていきますよね。チームで作っていくものですよね。小説は個人で作っていくものですから純度が高い分、1人でやっているから身勝手な独りよがりなところも出てしまうと思うんです。でも映画は、そこに集まった人々がチームとして作り上げる中で、伝えたいことが現実的に広がっていくんですね。“俺が俺が”で生きてきた僕にとっては、とても勉強になるんです。人の気持ちを分かってあげたり、自分の気持ちを伝えることの難しさを知ったり。争うこともあれば、和解もあるし、達成感もあるし。社会があって、それがとても勉強に成るんです。僕の場合、今までメジャーな映画会社で監督として作ってきましたが、これからは個人的な小さな舞台、路上で人と向き合うような音楽の原点とも言うべきところで、ものを作っていきたいと思っています。

――最後に読者の方、辻さんのファンの方へメッセージをお願いします。
ぜひ家族で見ていただける映画だと思いますので、あたらしい元気を手に入れて頂けたらなと思います。

 

 辻仁成率いるZAMZAライブイベントのお知らせ!

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10月22日六本木ヒルズアリーナにて18時30分より開始予定。持田香織が歌う『ACACIA』の主題歌の原曲をZAMZAが歌う予定。入場無料。

ZAMZA Official Website http://zamza.info/index.htm

 

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