新時代に羽ばたく“K-JAZZ”の貴公子 ハクエイ・キム
デビューアルバム『トライソニーク TRISONIQUE』を聞く…

―最近のK-POPの流行をみて、何か感じますか?
imageハクエイ 時代は随分変わったなと思いました。私は10年ぐらいオーストラリアに行っていましたが、6年ほど前に帰って来て、日本における韓国への意識が劇的に変わったなと実感しました。文化交流が行われるようになったことは大変好ましいことだと思います。政治的な交流は難しいところがある関係なので、せめて、音楽だけでも制約なく交流したいですね。

―実際に渡辺貞夫さんのツアー・メンバーに選ばれてどうだったんですか?
ハクエイ びっくりしました。貞夫さんの思いつきだったと思うんですけど、若いミュージシャンとツアーをやりたいとのことで、事務所の方からお話を頂きました。期間は短かったのですが、なぜ貞夫さんがジャズ界のトップに居続けられるのかを知ることができたツアーでした。言葉では説明できない、オーラ、存在感がものすごかったですね。一音を吹いただけなのに鳥肌が立ちました。正直、詳しく貞夫さんの音楽を知っていたわけではなかったので、逆に先入観を持たずに共演できました。それでも、かなり影響を受けましたね。ツアーを通し、キャリアが積めて、間違いなく自分の中に大きく残るものになりました。毎回のステージに命をかけて挑んでいましたね。演奏前にみんなで手をつないで、精神統一していました。これは、貞夫さんだからできることだと思いました。

―今までに影響を受けたアーティストは?
ハクエイ 直接的に受けた人は何人もいるんですが、最初は母親に連れられて、クラシックの先生や友人が弾く音楽を聴いていたんです。自主的に音楽を聴くようになったのは、思春期からでした。ロックが好きでメタルばかり聴いていましたね。それから、だんだん70年代のロックに惹かれるようになっていきました。当時はロックミュージシャンになりたいと思ってやっていましたので、まさか自分がジャズミュージシャンになるなんて考えてもいませんでしたね。自分の音楽形成にしても、人間形成にしても環境が大切だなと思いました。周りにどんな関係がいるかによって、自分も変わってきますね。

―ジャズをはじめたきっかけは?
ハクエイ シドニー大学音楽院に入る前に音楽の専門学校に通っていました。その時、キーボードの先生をしていた人がジャズ系だったんです。彼のジャズがはいろんな要素が混ざったものだったので、今まで思っていたジャズの概念が打ち崩されました。これは面白い音楽だな思うようになったのがきっかけです。

image―人種差別などで厳しかったことはなかったですか?
ハクエイ わたしはオーストラリアにいてあまり、人種差別を感じませんでした。差別がないことはないですが、結局は、人種じゃなくて、個人と個人のやりとりが大切だと思うんです。自分の経験上の話しですが、あるオーストラリア人に、最初アジア人ということで、良いイメージを持たれなかったんです。しかし、だんだん話していくうちに打ち解けるようになり、最終的には一緒にアジア料理の店に行くまで仲良くなりました。人種ではなく、人間として接していたことでパーソナルが分かち合えたような気がします。

―これから世界にどうやって音楽を広めるべきだと思いますか?
ハクエイ 私は、ジャズミュージシャンなので伝えるとしたら、やっぱりコンサートですね。現地に自ら出向いて、そこで音を奏でないと伝わらないと思います。だから、私も色々なところに行ってコンサートをする機会があればいいなと思っています。

―今後演奏してみたい国はありますか?
imageハクエイ いっぱいあります。行ったことのない国や、大きなことを言ったら全ての国に行って、演奏してみたいですね。韓国は行ったことがないのですが、韓国に行くなら、是非、自分の音楽で行きたいなと思っています。自分のルーツなので、訪れてみたいです。昔は国籍のことで悩んだり不安になったりもしましたが、今では逆にそれが自分を形成したのかなと思っています。

―ピアニストの人はみなさんグローバルな方が多いですよね?
ハクエイ クラシックやジャズの根源は日本ではなく、海外のものなので、深く関わっていくと自分が弾くのに正当性があるのか考えたりします。そうなると、自然とグローバルにならなくてはいけないんですよね。

―今後の作品はどう作っていきたいですか?
ハクエイ 私にとって、音楽は自分の帰る場所であって、自分のアイディンティティだと思っています。いろんな音楽が存在していますが、自分のトレードマークになるような音を奏でられたらいいなと思います。人に訴えかけるような音楽を作り、人に何かしらの変化を与えられればいいですね。音楽は感情を揺さぶるものだと思っているので、自分の音楽で豊かになってもらえたら嬉しいです。そうやって、人が潤っていけば社会も潤っていくのではないかと思っています。

―今回のアルバムの聴きどころは?
ハクエイ 先入観を持たずに、まずは聴いてほしいですね。ジャズが難しい、わからないという人が多くいると思いますが、ジャズを聴こうとするのではなく、音楽を聴くということを意識してみてください。感じ方は人それぞれだと思いますから、自由に聴いて頂ければ嬉しいです。

はくえい・きむ

京都市生まれ。父は韓国人、母親は日韓ハーフ。5歳の頃からピアノを始め高校卒業後、オーストラリアシドニー大学音楽院に入学。在学中に名ピアニスト、マ
イク・ノックに4年間師事。’3枚のアルバムをインディーズ・リリース。ジャズ・ファンから話題を集め’09年にトライソニーク”を
結成。’10年8月に渡辺貞夫のツアー・グループに抜擢。’11年1月、新レーベル「area
azzurra」の第1弾アーティストとしてメジャー・デビュー。3~4月にかけ全国ツアーを実施。

『トライソニーク』

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1月19日、ユニバーサル ミュージックより2,800円(税込み)で発売。

 

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