宮城県気仙沼市在住の彼女はシングル『雲の遙か』のレコーディングを東日本大震災の前日に終えた・・・

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宮城県の港町、気仙沼で暮らしながらシンガーソングライターとして活動を続ける熊谷育美さん。

4枚目のシングルとなる『雲の遥か』は3月10日にすべてのレコーディングを終えました。そして翌日の東日本大震災。
当日、気仙沼でテレビのロケをしていた熊谷さんの目の前で、愛すべき故郷は一瞬にして濁流にのまれてしまったのです。

『震災直後は声が出なかった』と話す熊谷さんがまた歌えるようになったのは、地元の人々の後押しがあったから。

心境の変化、歌への想い、故郷への想い――
作り手として大きな体験をした熊谷さんにお話をうかがってきました。

くまがい・いくみ★

85年5月24日、宮城県気仙沼市生まれ、在住。幼い頃からピアノに触れ、10代半ばから楽曲制作を始める。09年11月、シングル『人街雲』でメジャーデビュー。10年5月に発売されたサードシングル「月恋歌」が映画「劇場版TRICK・霊能力者バトルロワイヤル」の主題歌に起用され、話題となった、注目のシンガーソングライター。

シングル『雲の遥か』

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C/W 花びら抱いて
発売中 1,000円(税込)
タクミノート/テイチクエンタテインメント

(熊谷育美ライブ情報)

◆ 渋谷O-WEST (東京) 出演!
日程:2011年7月12日(火)
時間:開場18:30、開演19:00 
会場:渋谷O-WEST (東京渋谷区) 
お問い合わせ:O-WEST 03-5784-7088
◆熊谷育美「雲の遥か」発売記念インストアライブ@新宿 決定!
日時:6月24日(金)19:30~  
場所:タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
◆サカエスプリング2011出演!
名古屋市、栄・矢場町の11会場のライブハウス&クラブで行われるオムニバス・ライブサーキット。二日間に渡り開催されます。
日程:6月4日(土) 
時間:12:15~場所:EDITS 
チケット:発売中!

 

――3月11日、熊谷さんは地元・気仙沼で、サンドウィッチマンさんとお仕事をしていて、被災したと聞きました。
「はい、ロケが終わった直後でしたね。記念写真を撮ったあとにすごい揺れの地震が来ました」

――地震が来て、直後に津波が街を襲った様子も目にしたんですよね。
image「はい。私は高台に避難して津波の様子を見たわけですけど、九死に一生を得たという方もすごく多くいたと思うんですよね。波に追われて水につかりながら逃げた人、泳いで瓦礫につかまって生還した方の話もよく聞きます。本当に恐怖だったと思います」

――じっさい津波を目にして……
「びっくりしました。さっきまで自分がいた場所がもうないし、毎日歩いている道も津波に飲まれていて……。唖然としましたね」

――いま、気仙沼の状況はどのような感じですか? 少し落ち着きましたか?
「道路は自衛隊の方が通れる道をつくってくださったんですよ。それまでは皆さん孤立していました。でも、被害が大きすぎてどこから手をつけていいのかわからないというのが、皆さんの本音だったと思うんです」

――そのような状況で音楽活動はできましたか?
「震災直後は全然声が出なかったし、毎日音楽に囲まれて暮らしたい人間なんですけど、もう音楽を聴こうと思わないし、ましてや歌を歌おうという気持ちにもなりませんでした。とりあえず生きているんだ、私、という感覚ですよね。一か月間は自分自身との戦い、葛藤がありました。東京でライブがあったので、それが歌うことができたきっかけになりましたね」

――歌えないときに周りから励ましの言葉等を言われましたか?
「そうですね。震災直後は歌なんか歌っている場合じゃないと思っていたし、自分の殻に閉じこもっていたんですけど、気仙沼の皆さんに励まされ、お叱りを受け、背中を押されて、このままではいけないと思いました。震災後は歌う姿勢も変わりました。歌に想いをすべて込めて歌おうという気持ちがさらに強くなりましたね」

――震災後、心境に変化はありましたか? 
「生かされた人間としては、ひとつひとつの行動に重みを感じるようになりました。それが歌に反映されるような気がします」

――発売中の『雲の遥か』、カップリングの『花びら抱いて』は被災地の人々を励ますかのような曲ですが、どちらも震災まえにつくられたそうですね。
「はい、皆さんそう言ってくださるんですけど、震災まえにつくった歌で、震災を意識してつくったわけではないんです。偶然、詩の内容があっていたという感じで」

――復興ソングとも思えますが。
image「そう言われるんですけど違うんです」

――『雲の遥か』にはどんな想いをこめたのでしょうか?
「2年前につくった曲なんですけど、当時、なかなか思うようにいかなくて、でも、雲の遥か目指して坂道をのぼっていくような、それが人生かなって思ってその様子を歌いました。『花びら抱いて』も同じ時期につくった曲で、すごく耐える曲。メッセージ性というのはあまり考えてなくて、それぞれの皆さんに噛み砕いて皆さんなりの曲にしていただけたらと思っています」

――3月11日の前日にレコーディングをしたそうですね。
「そうです。前日に全部の音源があがったんです」

――2年前につくった曲といろいろ経験した現在、この歌に対する想いに変化は出ましたか?
「そうですね。完成したものを震災後にあらためて聞き返したんですけど、やっぱり私は気仙沼のことを歌ってきたんだなと、自分なりに気仙沼の景色などを作品に閉じ込めてきたんだなとそれをすごく実感しました。私、気仙沼が好きだなって(笑)。郷土愛がなおいっそう深まりました」

――いま現在も気仙沼に住んで、お仕事のときに上京しているわけですが、被災地から東京に来て、現地と東京の温度差を感じることはありませんか?
「震災後、初めて東京に来たのが避難して5日目で、情報がまったくなかった中を来たので、東京も深刻な被害にあい、すごく揺れたというのを聞いてびっくりしました。会ったひとりひとりの被災地の方への想いを感じて、逆に励まされましたね。気仙沼はあまりにも建物が壊れすぎたので、建物が建っていることにも驚きがありました」

――気仙沼の被害は甚大でした。
image「まさか火災まで起きるとは思っていなかったので、あの夜はすごく怖かったです。海が燃えていた。重油が、船から流れてどんどん爆発して燃えていって火が近づいてきて、どうなるんだろ?って思いました。本当、自然って怖いですよね」

――気仙沼出身として復興に向けて何かメッセージなどありますか?
「そうですね、やはり私はアーティストであり、気仙沼市民のひとりなので、気仙沼の皆と歩幅をあわせて復興に向けて歩いていきたいという思いがあります」

――今後の活動の抱負をお聞かせください。
「震災での出来事って日が経つにつれて風化していくじゃないですか。それがすごく怖い。もうこの悲しい思いは私たちで十分。ほかの人たちにこんな想いをしてほしくないし、二度とこんな被害が出てほしくないので、生かされている存在として風化させずに、そういうことも伝えていかなくてはいけないと思っています」

――『雲の遥か』『花びら抱いて』どちらも勇気をもらえる歌だと思いました。最後に読者にPRをお願いします。
「故郷って皆さんそれぞれにあると思うんですけど、私の故郷・気仙沼を感じてもらえたらうれしいですし、皆さんの曲にしていただけたらなと思います。ひとりでも多くの方に聞いていただいて、皆さんの曲になってくれれば本当にうれしいですね」

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