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同性愛、異性愛を問わず、女装を趣味とする男性『女装娘(じょそこ)』が最近、認知されつつある。そんな女装娘を主人公にした、異色の青春映画が完成した。窪田将治監督に、このテーマを取り上げた理由などを聞いた。

くぼた・しょうじ★

74年生まれ、宮崎県出身。06年に『zoku』で劇場映画デビュー。女子プロレスの世界を描いた『スリーカウント』(09年)で長編映画を初監督。代表作に『失恋殺人』(10年)、『CRAZY‐ISM クレイジズム』(11年)がある。

『僕の中のオトコの娘』

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監督・脚本・編集/窪田将治 
12月1日(土)~、銀座シネパトスにてロードショー、全国順次公開
(C)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
(オフィシャルサイト)http://www.boku-naka.com/

 

――女装娘をテーマにしようと思われた理由は何だったのでしょうか?
「もともとこの企画は、7年前のものだったんです。友達と新宿で飲んでいて、隣にいたカップルと仲良くなって。そのカップルが連れていってくれたのが女装バーでした。そこで話を聞くにつれて、面白くなっていって『これ、映画になるんじゃないかな?』と。でも当時は、女装娘というものが認知されていませんでしたから、実現しませんでした。それが、ここ数年で女装家のタレントが出てきたり、お昼の番組で彼氏を女装させましょう、みたいなコーナーが出てきたりして、『そろそろ実現できるかな』と。それが1年前です

――実際に、女装娘さんに取材されたんでしょうか?
image「お店に行って、お話を聞かせてもらいました。同性愛者の方で女装していたり、バイセクシャルの方がいたり、女装しているけど女性が好き、という男性がいたり。そういう曖昧さが自分でも好きで。曖昧なことって僕、好きなんです

――女装娘さんの変身願望が理解できる瞬間はありましたか?
「ありました。お姉ちゃんや妹がいて、女性に囲まれた生活を送っていたり、学園祭で女装したのがきっかけだったりするようです。『私たちは究極のナルシストなんですよ』とおっしゃる方もいました。僕も映画監督という肩書で“変身”しているわけですから、その気持ちはわかりますね」

――監督自身も、女装願望はありますか?
「女装願望はないですけど、変身願望はありますよね。僕、坊主頭なんで、ウィッグをつけるとしっくりくるんですよ

――主人公の謙介を、川野直輝さんが熱演していました。彼を抜擢した理由は?
「謙介役は、難しい役だなと思っていました。この役を演じられるのは20代後半から30代前半、かつ、女装したときに見映えがいい人じゃないといけない。いろいろとハードルが高かったんです。知り合いのマネージャーさんに彼を紹介してもらって、お会いしてみたところ、すごく気に入りました。彼が演じなかったら、映画が成立しなかったと思います。役の人間性を理解してもらうため、いろいろと僕からの要望を聞きながら演じてくれて、大変だったと思います

――謙介を引きこもりという設定にした理由をお聞かせください。
image「女装の世界と、僕がいる映画の世界はいっしょなんです。僕は映画というマイノリティの世界で生きている。そして僕も、精神的な引きこもりで、映画がなかったら今、何してたんだろう? と思うときもあります。引きこもって、仕事もせず、親に生活の面倒を見てもらっていたかもしれません。でも、僕は映画に出会った。この映画の主人公は女装に出会った。その中で、自分の好きなことを一生懸命にやる。だから、主人公はほぼ僕自身なんです。僕がスタッフやキャストに支えられて生活できているように、謙介は女装の世界の仲間たちや、家族に支えられて生きている。結局、最終的に認めてくれるのは家族ですから

――映画は女装をテーマにしていますけども、家族の話でもありますよね。それは、家族に対する特別な思いがあったんでしょうか?
「そうですね。僕自身、映画を始めたときは、家族に期待されてなかったと思うんです。でも、家族は黙って応援してくれて、僕はそれを感じながら戦ってきました。それで、運よく海外の映画祭にも呼んでもらって、少しずつお返しができているかなと思っているんです。親って口には出さないけども、子供の幸せをいつも考えてくれていると思うんです

――カナダのモントリオール世界映画祭で、監督の作品は3年連続で選出されていますよね。この作品に関して、現地の反応はいかがでしたか?
「すごくよかったですよ。カナダでは同性愛者同士の結婚が認められているので、内容に関してのハードルは高くなかったみたいです。日本のゲイや女装カルチャーの感想などを聞くことができました

――3年連続とくれば、4年目も……となると思うのですが、次回作は撮られているんでしょうか?
image「気持ち的には次もと思うんですけど、不安に思う部分もあって。ですので、今回の映画祭は親を呼びました(笑)。次回作は脚本が上がっているので、年内に撮れればいいなと思っています

――これから撮っていきたいテーマは何でしょうか?
「ニッチな世界、マイノリティな世界。そういう中に主人公がいて、一生懸命、努力しているという話が心に響くので。気づいたらそういう作品を撮っていることが多かったですね。年に1本撮って、初めて映画監督と言っていいのかなと思うので、コンスタントに撮れる監督になりたいですね

――では、最後に作品のPRをお願いします。
「この不景気で生きづらい世の中、新しいことを始める難しさがあると思うんですよ。その難しさ、そしてそれに向かう勇気というのを、女装の世界でがんばっている人間から感じ取ってもらえれば、うれしいと思いますね

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