「毎日3〜4つテレビ収録が入っていて、全然休めていません。ただ、まだオリンピックって終わりじゃないと思ってるんです。卓球男子を広めていくのも僕の役目ですし、小さいころからの『卓球をメジャーにしたい』という目標をかなえるチャンスが今来ているなら、このまま終わらせるわけにはいかない。卓球に注目してもらえるなら、どんどん出ようって」
そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第67回のゲスト・リオ五輪「男子シングルス」銅メダル、「男子団体」銀メダルを獲得した卓球の水谷隼選手(27)。忙しいテレビ出演の合間を縫って、中山との対談に登場してくれました。
中山「リオから帰国されて、まだ10日間ほどだと伺いましたが、連日テレビ収録や取材でお忙しいですね。やっぱりメダルの力はすごい?」
水谷「オリンピックの前後でこんなに扱いが違うのかと、正直ビックリしています。空港には記者やカメラマンの人たちが取材に来ていますよね。これまで卓球の場合は女子が動くとみんなが動くけど、男子のときはまったく動かない。声もかけられない。男子はずっとスルーされていました」
中山「悔しい気持ちもあったでしょ?」
水谷「それはもうずーっとありましたね。たとえば、世界卓球だと女子の放送はあっても、男子は基本的にない。でも、一応取材はされるんです。それは一切使われることはなくて……。初めて僕がオリンピックに出場したのは8年前の北京五輪でしたが、その前からも男女の扱いに歴然とした差があったので、10年以上悔しい思いをしていましたね」
中山「勝たなきゃ注目してもらえないもんね」
水谷「そうです。ただ、とにかくオリンピックでメダルを取れば、注目してもらえる自信はありました」
中山「やっぱり結果なんだね」
水谷「今までずっと負け続けていたので、1回の勝利でその借りを返すには、オリンピックしかなかったんです。それほどオリンピックは影響力がある。だから、『絶対勝ってやる』『相手を絶対倒すんだ』という強い気持ちで勝てた部分が大きかったと思います」
中山「オリンピックの現場のムードはどんな感じですか?」
水谷「たった1台を何万人もの観客が注目しているんですよ。サーブを構えるときはシーンとなって、ラリーをしているときも球の音しか聞こえないほどの静寂なんです。あの独特の雰囲気はいい意味でたまらないですね。やりがいを感じます」
中山「そんななかで、シングルスの銅メダルを取った。男子卓球史上初ですよね」
水谷「その夜は、ほとんど眠れなかったです。選手村に戻ったのは深夜1時。同部屋のみんなも寝ていて、シーンとした部屋の中で『ついにやったぞ……』と浸っていたら、もう朝4時くらいになっちゃって。起きてから『あぁ夢じゃなかったんだ』ってまたしみじみと浸りました」
中山「祝杯は挙げなかったんですか?」
水谷「1日あけてすぐに団体戦が始まるので、翌日も練習だったんです。みんなも団体のメダルに向けて集中していたので、自分だけ浮かれているわけにはいかなかったですね(笑)」