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「リピーターの方が多いというのは聞いています。実は、僕自身が同じ映画を劇場で2回以上見るという経験がほとんどないので本当にうれしいです。この作品は自分の原作、脚本で、絵コンテも描いて、監督もやっているので、僕自身でもあるし、子供のようなものです。ラストがどうなるかは言えないんですが、今回は最初から幸せな終わり方にしたいと決めていました」

 

こう語る新海誠さん(43)。監督したアニメーション映画『君の名は。』が、驚異的ヒットを記録中だ。週末の映画ランキング1位、8月28日の公開から10日間での動員数が約290万人、興行収入38億円を超え、大ヒット公開中の『「シン・ゴジラ」に迫る。まさに「ポスト宮崎駿」といわれるのも納得できる勢いだ。

 

山深い田舎町に暮らし都会に憧れる女子高生・三葉と、東京の男子高校生・瀧が互いの夢の中で入れ替わって起きる交流とすれ違いの切なくてドキドキのストーリー。ヒロインと同じ10代の観客を中心に幅広い世代が涙している。

 

「奇跡って、現実の生活の中でなかなか起こらないですよね。でも、今回は奇跡を起こして、願いがかなうような話にしなければいけないと思っていました。その1つの理由として、近年の大震災も大きなきっかけだったと思います。主人公の男の子が、『東京だって、いつ消えてしまうかわからない』と劇中で言いますけど、その気持ちって、大震災を経験したこの先、ずっとあり続けると思うんです。あのとき誰もが(震災前の生活を)、“取り戻したい”とか(被災者を)“救いたかった”という気持ちを抱いたと思います。その思いの総量みたいなものをなんとかしたいと、ずっと感じていました」

 

思いがけない運命に巻き込まれる三葉たち。それを回避しようと動く友人たちの姿に、震災時の出来事を重ね、涙するファンもいた。

 

「震災以前と以降で、人々の気持ちの有り様も変わったし、僕自身もたぶん変わったと思います。’07年の『秒速5センチメートル』では、リアリズムに徹して、普通は失うことのほうが多い初恋を描きました。今回は、震災のときに抱いた祈りや願いを映画にしたいと思って、奇跡に手を伸ばすというか、奇跡が起きる作品にすべきだと思いました」

 

’02年のデビュー作『ほしのこえ』以来、脚本も絵コンテも、自分でこなす新海監督。製作に入ると家にいる時間はほとんどなくなるが、できた脚本は妻(38)に最初に見せることにしている、と打ち明ける。

 

「妻の反応はすごく気になるんです。『ここは、感情がむき出しになりすぎて、よくわからなかった』なんていう感想が返ってきて。最初のころは、相当ケンカもしていました。妻には『まず褒めてくれ!』ということはお願いしてあります(笑)。どんなに気に入らなくても、まずはどこがよかったかということを見つけてほしいって」

 

今回の『君の名は。』の企画書を映画会社に提出するときも、「すごくいいね」と言ってくれたことが力になったという。

 

「それである程度自信を持って、東宝に出すことができたと思います。毎回、最初に妻に見せて自信をつけるというのはありますね。いちばん近くにいてくれる存在ですが、『面白いと思うよ』とか、そういう言葉が欲しいだけなんです。いつも、僕の作品のファンでいてくれると思います」

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