芸能スキャンダル、停滞する経済、横暴な政治……。一年を表す漢字は「金」だったものの、’16年の日本は、明るいニュースばかりではなかった。そんな日本を叱咤激励するのは、寄る年波をものともしない“最強のご長寿”たちだ。80歳、90歳を超えても“バリキャリ”道を突き進む彼女たちの、身をもって経験したからこその主張とは−−。
「物語の展開の速さや、派手な殺しのシーンなどで、視聴者の目を“その瞬間”、テレビ画面にくぎ付けにすることは大事ですが、ドラマを見た後に胸に残る“心のお土産”がなければ、どんどんチャンネルを変えられてしまうと思います。最近、バラエティ番組が多くなって、ドラマが少なくなっているのは寂しいですね」
第一線で活躍し続けているプロデューサーの石井ふく子さん(90)は、今のドラマ界をそう斬る。60年以上のキャリアの石井さんが一貫して描き続けているのは、『渡る世間は鬼ばかり』を代表とした“家族”の姿だ。
「電車の中ではサラリーマンのみならず、母親が小さな子どもの相手をスマホにさせています。だから隣の人に迷惑をかけても、母親は無関心で全然気づかない。そういった子どもは、学校から帰ったら、すぐに自室に閉じこもってパソコンやゲームに夢中に……。親子のぶつかり合いすらないんですね」
だからこそ石井さんの描くドラマには、家を中心に、家族が泣いたり怒ったり、お互いの心と心のキャッチボールが描かれている。
「ほんの一言、小さなセリフでも心に残るんです。たとえば『ママの趣味は何?』『パパだよ』という何でもないやりとりでも、温かい家族の姿が表現できます。大きな事件も、派手な演出も必要ないんです」
希薄になっている家族の存在をもう一度見つめ直すようなドラマをまた作ってほしいと考える石井さん。
「最近、未成年の殺人事件のニュースをよく目にしますが、私たちの作るテレビの影響もあるんじゃないかと、心配しています。私はそれほど、テレビは大きな力をもっているものだと意識しています。だからこそ、ゆっくりだけど、丁寧に心情を描くことが大事なんですね」