「千秋楽の幕が下りて『この幕はもう二度と開かない』と思ったときが、実は本当に嬉しかったのです。やり終えたという満足感と、初日を迎えるときの、新しい幕が開くという毎回のドキドキ感が終わったこと。常に神経を研ぎ澄ましてきたので、最後のご挨拶が終わった瞬間にすごく心が軽くなりました」
そう語るのは、昨年9月に16年間在籍していた宝塚歌劇団を卒業した元『月組』男役トップスター・龍 真咲。中性的魅力と圧倒的歌唱力でトップスターに就任すると、14年に行われた宝塚歌劇団100周年記念式典公演では全5組を代表して主演に抜擢。その立ち位置は文字通り一時代を築いた。突然の卒業から間もなく1年、胸の内を初めて本誌に語った。
「卒業を意識し始めたのは100周年公演のとき。主演を務めさせていただいたときに『これ以上幸せな思いは味わえない』と感じました。それなりの重責を背負ってやりましたし、それぞれの組が結果を出してやっていくということがどれだけ大変なことかも分かりました。その後に『1789』という新作ミュージカルの主演も決まっていたので、自分のなかに“これ以上やりたいことが見つからない”という思いが正直あったんです」
卒業を決断すると、まわりからも「なぜ今辞めるの?」と聞かれたという。その答えについて、彼女はこう続けた。
「トップというのはいつか終わりがきます。それが現実です。両親やファンの方、最後まで応援してくださる方々がいてくれて、私は一つの世界を駆け抜けることができた。こういう形で終えられることが、いちばんうれしいことだと思いました」
中学時代から宝塚に魅せられ、憧れのステージに立つことを“将来の夢”として持ち続けてきた龍。当時は先輩方のポスターを部屋に貼り、毎日妄想していたという。
「ずっと天海祐希さん(49)と真矢ミキさん(53)のファンでした。おふたりの舞台も観に行きましたし、写真集も買いました。100周年公演のときに真矢さんとお会いできて『頑張ってね!』と声をかけていただきましたが、その後は何を話したか覚えてないくらい。今も憧れは変わりませんし、突然現れたらぱっと隠れて陰から見ていると思います(笑)」
青春のすべてを宝塚に捧げてきた彼女にとって、次の夢を見つけることは簡単なことではなかった。卒業後は、時間を大切にゆっくりと今後のことを考えた。
「宝塚時代は全体稽古や自主稽古、打ち合わせなど時間が足りな過ぎて食事の時間を削るしかありませんでした。実は卒業後に4~5キロ太ってしまい、体重計の電池を抜いてしまいました(笑)。お酒が大好きなので、帰ったらとりあえずプシュ!ですね(笑)。これまでは公演や稽古で汗をかいていましたが、ヨガやジムに通い始めました。時間がある生活のなかで色々なことを考えるようになると、やっぱり“表現したい!”という思いが日に日に強くなっていきますね」
“表現者”としての再スタートを決意した彼女はこれまで舞台、歌手、モデルなど肩書にとらわれない活動をしてきた。そして8月23日には待望のファーストアルバム『L.O.T.C 2017』リリース。26・27日には東京Bunkamuraオーチャードホールでコンサートも行う。
「最後の舞台で『夢をまた見つけることが出来たら皆さんにお会いしたいです!』と挨拶をしましたが、今回のアルバムやコンサートが私の再起動のときだと思います。歌というものを通して自分自身を表現し、色々なジャンルに挑戦して自分の実力をつける。そして宝塚時代と同じように気持ちで通じ合っていきたいです。今までのファンの方、そして新しい人たちにも私自身を身近に感じて知っていただけるように頑張っていきたいです。結婚願望ですか?しばらくはお仕事ですね。将来的に自分の子供は見てみたいですが(笑)」
肩書を外した龍 真咲の活躍に期待したい。
ヘアメイク:猪狩友介(Three PEACE)
スタイリスト:RyokoKishimoto
衣装:Aula
アクセサリー:Yokokitagawa