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9月19日、城山観光ホテルの国際コンベンションホール(鹿児島県鹿児島市)では、南九州カントリークラブの開場50周年記念祝賀会が盛大に催されていた。会の中盤、ステージに登場したのは、大ヒット曲『Story』などで知られ、現在、全国ツアー「和と洋」真っ最中のシンガー・AI(35)だ。

 

「AIちゃん、お帰り~」と会場が一気に盛り上がる。実はAIは、同カントリークラブの理事長・植村久さん(65)の長女。久さんが500人の招待客のために用意したサプライズ・ゲストだった。ステージ前で、スマホで写真を撮ったり、手拍子をする招待客の最前列に、久さんの妻でAIの母、バーバラ植村さん(69)の姿があった。3曲歌い終えると、AIはマイクで語り始めた。

 

「今日はこれで終わりにしようかと思ったんですけど。ダダ(父・久さん)が、どうしても好きな曲があるというので……。ママに来てもらおうかな。ママ、ちょっと」

 

娘からの思わぬ呼びかけに、「イエ~イ!」と、ハイテンションに声をあげ、とはいえ少し照れくさそうに、壇上に駆け上がったバーバラさんにも、大きな歓声が沸いた。

 

講演会講師、作家、タップダンス講師・振付師、イラストレーター、ボランティア団体主宰者など、多方面で活躍し、地元の人気情報番組『かごしま4』(南日本放送)で週1回、コメンテーターを務めるバーバラさんは、鹿児島では、街を歩いているとサインを求められるほどの有名人なのだ。

 

そこへ流れてきたイントロは『ママへ』。AIが母に贈った、母への感謝と愛をつづったバラードだった。驚いたバーバラさん。みるみる目に涙が浮かんでくる。しっとりと、愛を込めて歌いあげる娘の横で、バーバラさんは、拝むように両手を胸の前で合わせて、何度も何度も頭を下げた。にじんだ涙が、照明でキラキラ光った。

 

AIは言う。

 

「ママ? いや、もうサイコーですよ。人に優しくて、いつも明るくて、元気で。忙しくても、体調的に大変な時期でも、どんなときも笑顔でハグして。本当、素晴らしいですよ。子どもの私が、そう思うんですから」

 

たしかに――。実の娘がここまで手放しで称賛できる母親はそういない。

 

バーバラさんは’48年4月10日、アメリカ・ワシントン州で生まれた。父・遠藤正美さん(’96年没・享年80)は、米国生まれ、静岡育ちの日系2世。その後、米国に戻り、第二次世界大戦時、合衆国史上最も多くの勲章を受けた日系人部隊442連隊に所属していた。イタリア駐屯中、ジョバンナさん(91)と恋に落ち、結婚。だから、バーバラさんは日本人とイタリア人のハーフ、AIはクオーターだ。

 

バーバラさんは、子どもたちに次の4つだけを言い聞かせてきた。

 

「まず、挨拶。目を合わせて、笑顔で、愛を込めて挨拶する。それから、人のよいところを見つける。どんなときも『プリーズ』と『サンキュー』を忘れない。それから、自分のことは自分で決める」(バーバラさん)

 

幼稚園に行く道も、好きな道を選ばせた。デパートでは、自分が好きな洋服を選ばせる。そして、心から褒めた。

 

「『あなたたち、服、決めるの上手ね』と。褒めると自信をもつでしょう。同時に、自分で決めていい。人と違っていい。自分らしくていいと言いました」(バーバラさん)

 

娘たちの幼稚園からのママ友・山野真理さんは言う。

 

「バーバラはとにかく子どもたちに『愛してる』と、頻繁に伝える。AIちゃんも幸ちゃん(次女)も、愛されてることをしっかりわかって育ったから、自分の進みたい道を真っすぐ歩いていけたんだと思います」

 

AIが中学2年生になると、バーバラさんは「18歳になったら、自分で働いて、自分のことは、自分でするね」と忠告をした。それは、米国の一般的な教育方針だ。AIは、「わかってます。ママ、私、もう夢、決まってる。私、ビッグな歌手になる!」と答えた。

 

AIは、高校進学を考えていなかった。しかし、バーバラさんには高校までは卒業してほしい気持ちがあった。アメリカでは高校までが義務教育だからだ。中学の三者面談で、先生が「高校どうするの?」と、聞いたとき、バーバラさんは突然、「AIはアメリカの高校に行きます」と言った。

 

AI自身、事前にそんなことは何も聞いておらず、「え? アメリカ?」と、驚いていたが、すぐに、「面白いかもしれない。それいいね」と、自分で決めた。こうしてAIは、中学卒業後、ロスの芸術高校に進学。その才能を開花させた。AIは言う。

 

「日本で、言葉もわからず、すごく大変な思いをした時期を乗り越えて、さらにポジティブになっているママを見ると、すごいなって思います。昔はそんな感じではなかったので。私が小学校から中学くらいのときからかな。ママが毎日、本を読んで、朝起きたときに『今日はいい日になります』『私は自分が大好きです』と言うとか、私や妹が悪いことを言うと『そうでなくてこうでしょ、ポジティブに考えて』と言ったりとか。きっと自分が変わろうと思って、頑張ってきたんだと思うんです。私はその過程を見てきたから」

 

たゆむことなく日々、小さな努力を重ねて、バーバラさんは自分自身を変えてきた。そんな生き方の延長に、AIという歌姫の存在があった。久さんは「AIの歌はバーバラに教わったことが相当入ってると思いますよ」と言う。冒頭の祝賀会。『ママへ』で、AIはこう歌った。

 

《ママ あなたが教えてくれた 優しさ 思いやり 愛を ママ あなたが見せてくれた 希望も 未来も 全てを I Love You》

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