2年前、初めてミュージカルに挑戦した俳優の哀川翔(56)。ジャージ姿で熱心に稽古をする稽古場の共演者たちを見て、度肝を抜かれたそうだ。
「なんでみんなジャージに着替えてるんだ!? 普段着でいいじゃん、と思って。『一世風靡セピア』で路上パフォーマンスをしていた30年前は、俺たち、スーツで踊ってたくらいだから(笑)。ミュージカルは、歌の練習にしてもありえないくらいデカい声を出していて、びっくりしたよ」(哀川・以下同)
’15年、オリジナルミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』が産声を上げた。ラサール石井が10年間構想を温め、実現した作品だ。あるミュージカルの仕込みからバラシまで、さまざまな役割を担った人々が奮闘努力する舞台裏に光を当てる。
「ラサールさんから誘いがあってね、俺なんかがしゃしゃり出てもいいことないよ、って逃げたんだけど。足を踏み入れてみたらまんまとハマっちゃってさ」
哀川が演じるのは舞台監督・加賀美。現場の責任者だ。
「一本気というか、すごく不器用なやつ。執着してることがあっても、表に出さないね。自分の中ですべて打ち殺してるんだな。演じていると、もっとうまくやりゃいいのにと思う箇所がいっぱいある。だけど、その不器用さが信用されている理由なんだろうね」
当初は出演に逃げ腰だったものの好評で、ファンの熱望に応えて再演が決まった。
「高校生だったうちの娘たちも何度も見に来ましたよ。難しくないから、お芝居に触れたことのない人も『ミュージカルってこんなにおもしろいんだ!?』つってましたから。俺たち演者が達成感を味わえば、お客さんは拍手してくれるんだね。俺はこれくらい頑張ったんだ、という思いを本番でぶつけるんです」
「稽古は苦手」と笑う哀川だが、今では誰よりまじめに稽古場に通っている。夢中になれた一世風靡セピア時代は数年で過ぎ、熱い青春は終わると思っていたそうだ。が、50代半ばの今、また楽しめる宝物を見つけた。
「奇想天外なことが次々に起きる物語を作り上げていく話だけど、俺がミュージカル界に首を突っ込んだときの、何がなんだかわかんない感じとすごく似てる。初演のときよりグレードアップさせないと」