「完成した映画を見て“カッコええな、攻めてるなぁ”と思いました。説明的やなくても、匂いというか空気を感じることができるんです。オリジナル脚本が通りにくい時代に、入江悠監督はなんであの激烈な脚本を書きたかったのか」
そう語るのは、auのCM“三太郎シリーズ”でちょっとおバカな浦島太郎に扮する桐谷健太(37)。公開中の映画『火花』では、せつないほど懸命に青春を突っ走る芸人を演じている。
かたや冒頭の言葉は、最新映画『ビジランテ』(全国公開中)を見ての感想。「ビジランテ」とは、警察や法律、正義が及ばない過酷な世界で、自ら大切なものを守り抜く集団のこと。
「撮影はハードでしたよ。俺は監督のまっすぐなまなざしに“よし、やるぞ!”と奮起したし、好きなんでしょうね、過酷な場に身を置くのが」
物語の舞台は開発が進む地方都市。支配的な父親を憎む3兄弟は、成長して別々の道を選ぶが、父の死をきっかけに30年ぶりに再会し……土地や家族というものに縛られた3人の運命は交錯して、凄惨な方向へと転がり始める。
この作品で印象に残るのは、それぞれが父親や兄弟との確執を抱え必死で川を渡るシーン。極寒の冬の夜、ナイトロケで撮った画は闇の中で凍りつくようだ。
「空気は痛いほど寒いし、川の水は針で刺すような冷たさ。でも、映画としてはそんな天候に助けられたところもあるんですよ。雪がちらついて息も白く、迫力が増して。今回は役を作り込まず、自分の衝動的な反応を大切にしました」
3兄弟の長男役は大森南朋、次男が鈴木浩介、桐谷は三男を演じている。この3人がトリプル主演だ。
「思う存分、主演らしいことしよ!! って(笑)。で、ケータリングで熱々のチキンソテーやCMに出てるケンタッキーのフライドチキンを差し入れました。気温がマイナスまで下がる深夜に頑張ってるスタッフさんや共演者は、みな喜んでくれましたよ。『過酷な現場でも、おまえはホンマにほがらかやな。助かるわ』って」
旬の俳優、気さくで楽しい。どの作品でもぎりぎり手の届く役に挑戦してきたそう。
「現実の自分以上のことはできないと思う。今までの役も、俺の中にいるんだと思うんですよね。だからこそ自分を大きくしていかないと」