現在公開中の『北の桜守』(滝田洋二郎監督)で、映画主演作が120本という節目を迎えた吉永小百合さん(73)。この作品は、『北の零年』(’05年)、『北のカナリアたち』(’12年)に続き壮大な北海道を舞台に描かれる“北の三部作”の完結編でもある。
吉永さん演じる“江蓮てつ”は、出征した夫の形見のようにして庭の桜を守っていた。太平洋戦争末期には樺太から息子と共に北海道に引き揚げる。戦後は極貧の生活を送りながらもたくましく生きていく。息子役で堺雅人、その妻に篠原涼子、夫役で阿部寛らが共演している。
映画デビューして59年の吉永さん。’62年の『キューポラのある街』では史上最年少(18歳)でブルーリボン賞主演女優賞にも輝き、日本中に“サユリスト”を生んだ。テレビの大ヒットドラマを映画化した『夢千代日記(’85年)では、広島で胎内被爆した芸者のヒロインを演じた。これを機に、吉永さんのライフワークである原爆詩の朗読の活動が始まる。
それ以前にも原爆をテーマとした『愛と死の記録』(’66年)がある。試写で会社側から『被爆者のケロイドの描写が刺激的すぎる』などとカットを命じられた。それに対して吉永さんたち出演者やスタッフは、撮影所前の芝生で座り込みの抗議をしたという。
「当時から、作品に入り込むたちだったんですね。原爆の悲劇というのを、自分のことのように思いながら撮影にのぞんでいましたから。7年前の、原発事故後の福島に対する社会の反応に似た構図を感じましたね。最近は核兵器禁止条約等にも関心が高まっていますが、もっと語り合っていかなければいけないと思っています」(吉永さん・以下同)
青春時代から現在まで、女優として全身全霊をかけて演じてきた。吉永さんはその思いを、共演する若い俳優たちに、しっかり語り継いでいる。
「お母さん役を重ねることで、『母と暮せば』(’15年)でご一緒した嵐の二宮和也さん(34)、今作の堺さんと、どんどん息子が増えている感じです。もちろん、かわいい娘たちも。石原さとみさん(31)とは『北の零年』で、母娘役でご一緒しました。あのころは、まだ高校生で進路を悩んでいるような話も聞きましたが、いまは堂々とお仕事なさっているし、すっかり女性らしくなりましたね」
今年の石原の年賀状には、「また吉永さんを『母上!』と呼ぶような役をやりたいです」とあったそう。
「満島ひかりさん(32)は、『北のカナリアたち』で、あのサロベツ原野での撮影があって。短いシーンでしたが、事前に現地を見に行ったと聞きました。一つの役に全力投球することの大事さを、私も改めて感じました。若い方の成長を見守るのは本当にうれしいし、お話しする機会があれば必ず、『映画に出続けてくださいね』ということを申し上げています」
来年は映画デビュー60年。今後の抱負を尋ねたとき、思いがけない言葉が吉永さんの口からこぼれた。ほんの1年前には「引退」も頭をよぎっていたというのだ。
「実は、昨年2月に『北の桜守』の撮影が始まる前までは、半分くらいは次の120本という節目で女優のお仕事に幕を下ろそうかということも、考えていたんです。でも、実際に撮影が始まってみると、やっぱり映画の現場はとても楽しくて。それにこんなこともあったんです……」
昨年暮れ、『おとうと』(’11年)や『北の桜守』にも出演している笑福亭鶴瓶(66)の落語会でのこと。
「八千草薫さん(87)にお会いしたんですよ。20代のころに姉妹役で共演して以来です。50年近くたっても、ぜんぜん雰囲気が変わらなくて、かわいい。現役で映画にも出ていらっしゃる。ああ、こんなふうに年齢を重ねていけたらどんなにいいかしら、って思いました」
もう一つは、『夢千代日記』でも共演した樹木希林(75)とのこんな約束だった。
「樹木希林さんと、かねてから『八月の鯨』(’87年)のような映画で共演したいということを話しています。93歳と79歳の女優の共演が日本でも話題になったアメリカ映画ですね。実は去年の暮れにも、希林さんに『ねえ、やろうよ』ってハッパをかけられまして(笑)。まだテーマも決まっていませんが、希林さんもお体を大事にしてくださって、いつか、ご一緒したいと思っています」