08年にお笑い芸人から落語家へと転身し10年を迎えた月亭方正(50)。10周年を機に『落語は素晴らしい ~噺家10年、根多〈ネタ〉が教えてくれた人生の教え~』(ヨシモトブックス)も出版。50人集めるのがやっとだった観客も、独演会で800席を満席にするほどの人気となっている。
そんな方正を支えたのが、妻の存在だった。売れっ子芸人から落語家に転身するときも反対せず、収入が半減しても応援してくれた。しかし、そんな妻が怒りを露わにしたことがあったという。方正がこう振り返る。
「芸人時代は僕が飲む・打つ・買うの生活に溺れていても、黙っていてくれていたんです。僕が苦しんでいると、嫁も察してくれていたみたいです。でも落語家になってから1年半は夫婦喧嘩の嵐。急に飲む・打つ・買うの生活に文句を言うようになってきて。今思うと嫁も僕のことが心配で必死だったんだと思います。本気で落語家になろうとするなら、遊ぶことなく打ち込んで欲しいと。お陰で僕も更生できましたから、本当に感謝しています」
妻の叱咤は愛情の裏返しだったのだ。実際、彼女は夫へこんなサポートをしていた。
「仲直りした後、将来の夢を語ったんです。『僕が落語家として大成して全国を回れるようになったとき、お前が三味線で出囃子でも弾けたら……。年を取っても、2人で全国を回れるからええな』と。すると、それをきっかけに嫁は三味線を習い始めたんです」
それほど落語家への転身を応援してくれている妻。だが、方正は記者をこう言って笑わせる。
「まあ、もうとっくに三味線は辞めているんですけどね。今はカードで散財が趣味ですよ(笑)」
しかしその散財も、自分に対する心配がなくなったからこそだと嬉しく思っているという。
「落語を始めるまで、僕はずっと何をどうすればいいのか悩み続けていました。でも落語はセンスの上に努力を乗っけることができる。この努力できることが、これまでとの大きな違いです。以前は神社で手を合わせる度に願い事が変わっていました。でも、落語を始めてからはずっと同じです。『家族が健康で幸せでありますように』ということ、そして『立派な噺家になれますように』という2つだけですよ」